本研究では、金をセンサー基板とする抗体センサーにおける抗体の利用効率と分子認識の向上を目的に、ビニルメチルエーテル-マレイン酸共重合体(VEMAC)を用いた抗体-高分子コンジュゲートの利用の可能性とその有用性について検討した。 平成25年度までに、VEMACによる修飾は、タンパク質の熱安定性を顕著に改善することを示唆する知見を得た。平成26年度は、生体分子間相互作用の検出および解析に利用されている水晶振動子マイクロバランス(QCM)のセンサーチップである水晶振動子の金電極表面において、抗体-VEMACコンジュゲートの合成を行い、QCMを利用した抗体‐抗原反応の検出におけるVEMACコンジュゲートの効果について検討した。 まず、QCM金電極表面に6-amino-1-hexanethiolの自己組織化膜を作成し、その表面アミノ基とVEMACのカルボキシル基を縮合させることでQCM金電極表面をVEMACで修飾した。本表面では、バイオセンシングでしばしば問題となる生体成分の非特異的吸着が顕著に抑制された。そこで、炎症性マーカーであるC-反応性タンパク質(CRP)の抗体をVEMACのカルボキシル基を介して固定化し、QCM金電極表面において抗体‐VEMACコンジュゲートを合成し、その基質認識能をQCMで評価した。CRPを含む試料溶液を用い、バイオセンシングを行った結果、CRP抗体‐VEMACコンジュゲートは、定量的にCRPを検出することを明らかにした。 一般に固体表面に固定化された抗体分子は、そのランダムな分子配向性などにより、基質認識能が低下することが知られている。今回合成した金電極表面の抗体-VEMACコンジュゲートはVEMACの高い水溶性により、抗体が溶液状態と同様に基質分子を認識することができ、その結果、固定化抗体の利用効率を向上させることが可能になったと推察される。
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