過去二年間において、リン脂質であるDPPCとPEG系界面活性剤であるポロクサマー188からなるリポソームを調製し、その機能および、炎症性肺疾患(肺炎、肺がんなど)における肺組織内環境がリポソームに与える影響について検討を行ってきた。今年度は、治療を視野に入れ、カルセインという蛍光マーカーではなく、抗がん剤であるドキソルビシンを用い、経肺投与に有効なドキソルビシン封入リポソーム製剤の開発を行った。条件の検討を行うことにより、ドキソルビシンを高効率でリポソーム内に封入することに成功した。またリポソーム内にドキソルビシンを導入するためのリポソーム内溶液(緩衝液)を選択することで、温度応答性に変化が生じたことから、リポソームの温度応答性はリポソームの構成膜だけでなく、リポソーム内における薬物の保持状態も大きく影響することを見い出した。このリポソームの脂質組成をラットに経肺投与したところ、炎症性サイトカインの増加は認められなかった(in vivo)。さらに、このリポソームは、細胞株を用いたin vitro条件においても、細胞毒性を示さないことより、経肺投与に適していると推察される。そして、本リポソームは、加温することで薬物であるドキソルビシンを放出し、肺がん細胞株に対して、殺細胞効果を示したことから、非常に有用な経肺投与型リポソーム製剤として期待できた。また、二次的な研究成果であるが、本研究計画を遂行している際に、本リポソームは温度だけでなく炎症部位で高発現する酵素であるホスホリパーゼA2においても高感度に応答し、薬物を放出することを見出している。これらの新たな知見も合わせて、本計画については、引き続き、検討を重ねていく予定である。
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