研究課題
これまでの検討により,フェニルボロン酸修飾γ-シクロデキストリン(PBA-γ-CyD)とナフタレン修飾ポリエチレングリコール(Naph-PEG)の組合せにより,糖応答性分子ネックレスの調製が可能であることを見出している。平成26年度はこの糖応答性分子ネックレスにインスリンを組み入れる検討として,ポリエチレングリコール修飾インスリン(PEG-Ins)を調製し,分子ネックレスへの適用を試みた。PEG末端にナフタレンを修飾することにより分子ネックレスが効率良く得られると考え,ナフタレン修飾PEG-Ins(Naph-PEG-Ins)を調製した。これをPBA-γ-CyDと水中で共存させることによりNaph-PEG-Ins/PBA-γ-CyD分子ネックレスが固体として得られた。各種機器分析により構造解析を行い,これまでの検討と同様,1本鎖分子ネックレス構造を持つことを確認した。放出挙動の調査では,Naph-PEG-Ins/PBA-γ-CyD分子ネックレスは水中でNaph-PEG-Insを徐々に放出したが,糖が共存することによりその放出速度が増加した。この結果は,血糖値が高いときにインスリン誘導体を放出する人工膵臓分子マシンの動作原理の開発に成功したとことを示すものである。また,新たな糖応答性分子ネックレスの開発の試みとして,フェニルボロン酸修飾ポリエチレングリコール(PBA-PEG)を合成し,CyDとの相互作用を調査した。その結果,γ-CyDとの組み合わせによりPBA-PEG/γ-CyD分子ネックレスが調製可能であった。この分子ネックレスも糖と共存することにより,崩壊する特性を持つことを見出した。
2: おおむね順調に進展している
平成26,27年度の計画では「PEG-Insによる分子ネックレスの調製とその血糖値制御機能の評価」を課題としており,インスリンへのPEG鎖の導入から検討を始めた。末端に異なる官能基を持つPEG(NH2-PEG-COOH)を用い,アミノ基をナフトイルクロリドで修飾した後,もう一方のカルボキシ基とインスリンのアミノ基の間でアミド結合を形成させた。こうして得られたNaph-PEG-Insはインスリン1分子あたり約2本のPEG鎖が導入されていた。Naph-PEG-InsをPBA-γ-CyDと水中で共存させることにより,ねらい通りNaph-PEG-Ins/PBA-γ-CyD分子ネックレスを得ることができた。得られた分子ネックレスについて各種構造解析を行った結果,PEG鎖とPBA残基の両方がγ-CyD空孔に包接された珍しい構造であることを見出した。このことは超分子化学の分野でも重要な発見といえる。Naph-PEG-Ins/PBA-γ-CyD分子ネックレスは水中でNaph-PEG-Insを徐放することが確認された。これは既報のPEG-Ins/γ-CyD分子ネックレスと同様の結果といえる。PBAが導入されたNaph-PEG-Ins/PBA-γ-CyD分子ネックレスではグルコースを添加したとき,Naph-PEG-Insの放出速度が増加が見られた。これはPEG-Insの糖応答性放出を実現した世界初の例といえる。今後,血糖値レベルでの応答性が得られるような分子ネックレスの改良を行う。以上の結果をもって,平成26年度の計画はおおむね順調に進展しているといえる。
平成25年度の「グルコース高親和性PBA-CDの調製と分子ネックレスへの適用」の検討で,ニトロ基導入PBA(NPBA)をγ-CyDに修飾したものがグルコース高親和性であり,かつ分子ネックレスに適用可能であることを見出した。平成26年度の「PEG-Insによる分子ネックレスの調製とその血糖値制御機能の評価」ではNaph-PEG-Insの調製に成功し,これとPBA-γ-CyDによる分子ネックレスが得られ,糖濃度に応じてNaph-PEG-Insの放出速度が増加することを確認した。平成27年度ではグルコース高親和性のNPBA-γ-CyDとNaph-PEG-Insの組合せにより,分子ネックレスを調製し,糖応答性を評価することを第一の課題とする。その情報を基に,血糖値応答性インスリンデリバリーシステムへと発展させるための以下の課題について検討する。血糖値に応答するために,グルコース親和性の調整が必要となる可能性がある。そのため,グルコース高親和性PBA-CyDの探索は引き続き行う。グルコースを2つのボロン酸で結合することで高い結合能力を示すと期待されるPBA多点修飾CyDの調製も試みる。これまでにPEG誘導体では末端をナフタレン修飾することが分子ネックレス調製に有効であることが見出されたが,他の修飾基での検討も行い,分子ネックレス形成速度あるいはPEG-Ins誘導体放出速度への影響を調査し,適した修飾基を見出す。In vitroで満足行く性能の糖応答性分子ネックレスが得られた場合、in vivoでの評価も実施する予定である。
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