研究課題/領域番号 |
25860032
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 兵庫医療大学 |
研究代表者 |
塚本 効司 兵庫医療大学, 薬学部, 助教 (00454794)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 蛍光プローブ / カドミウム / 有害重金属 |
研究概要 |
カドミウムは生体に障害を与えたりガンを誘発したりすることが示唆されているが、その詳細なメカニズムは未だ解明されていない。そのため、生体中のカドミウム動態を可視化する新たなイメージング法が強く求められており、そのツールの一つであるカドミウムイオン蛍光プローブの開発が盛んに行われている。しかし、感度や選択性などの性能面において満足できるプローブはほとんどない。よって、更なる高性能化を目指して、非可逆反応を利用したカドミウムイオン蛍光プローブを設計することにし、これまでにそのプロトタイプの開発に成功している。しかしながら、やや分解性があり、水銀イオンに対しても応答する等、選択性がやや低いといった欠点を有することが分かった。その一方で、カドミウムイオンに対して非常に高感度であるため、上記の欠点を改良することにより従来よりも高性能なプローブを開発できると考えた。 本年度は開発したプロトタイププローブに対してさまざまな分子改良を行い、安定性および選択性の向上を試みた。プローブの分解性は、構造中に存在する脂肪族1級アミノ基の高い求核性に由来するものと考え、その1級アミンをより求核性の低い芳香族アミノ基に変換したところ、望み通りプローブの分解性が低下し、実用に足る安定性を付与することに成功した。また、カドミウムイオン配位部位を種々検討したところ、水銀イオンに対する応答性がやや低下し、選択性の向上が見られた。今後、更なる分子改良を試み、選択性の向上を目指していく予定である。 一方、カドミウムイオン配位部位の検討を行う最中、選択性および感度が高い新規の可逆的カドミウムイオンプローブを見出すことに成功した。非可逆的プローブではないものの、有用性が高いと考えられ、また、本プローブから得られる知見が非可逆的プローブの開発に役立つと考えられるため、本プローブについても詳細な性能評価等の検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前に開発したプロトタイププローブにさまざまな分子改良を施した結果、安定性を十分に向上させ、カドミウムイオンに対する選択性を改善することに成功した。これはほぼ当初の研究計画通りの成果である。一方で、安定性を向上する目的でプローブの分子構造内に導入した芳香族アミノ基により、カドミウムイオンとの反応後に発する蛍光が強く消光されることが明らかになった。このことは感度の低下を招くため、新たな問題点として解決しなければならない。しかしながら、プローブの蛍光色素部位周辺における軽微な構造変換や蛍光色素部位の他の蛍光色素への変更によって蛍光特性を変化させることで、十分改善可能であると考えられる。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると言える。今後、得られた結果を基に、蛍光特性や選択性等の機能性向上を目指して更なる検討を行うことで、実用的な非可逆的カドミウムイオンプローブを開発することができると考えている。 また、カドミウムイオン配位部位の検討の最中に見出した可逆的カドミウムイオンプローブについては詳細な検討を行い、細胞内カドミウムイオンイメージングに資する有用なプローブであることを明らかにした。さらに、その検討の結果から、カドミウムイオンの配位子としてエーテル酸素やアミド基を適切な位置に配置すると選択性が向上することが明らかになった。この成果は当初の研究計画には無い予定外の成果であるが、非可逆的プローブの分子改良に応用できる可能性がある重要な知見が得られており、今後の検討の促進に役立つものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、プローブのカドミウムイオンに対する選択性の向上、およびカドミウムイオン反応後における蛍光消光の抑制を目指して検討を行う。選択性の向上に関しては、カドミウムイオン配位部位を種々変化させた各種誘導体の合成を進め、それらの物性およびプローブ性能を評価していく。これまでの結果から、エーテル酸素やアミド基がカドミウムイオンの選択的認識に有用であることが分かったため、これらの官能基を配置した誘導体を中心に検討を行っていく。また、蛍光消光の抑制については、プローブの蛍光色素部位への官能基の導入、官能基の位置変更、蛍光色素部位の他の色素への変更等を行い、どの方策が蛍光特性の改善に有用であるかを見極める。もっとも有用な方策に基づき、更なる誘導体化を種々検討し、蛍光特性の改善を目指す。 選択性の向上と蛍光特性の改善を目的とした各種誘導体の合成は並列して行い、多角的にプローブ性能の向上を検討する。また、望む高性能化を達成できない場合は、蛍光色素や官能基の種類および導入位置を大幅に変更した誘導体の合成も試みる。以上の検討から、もっとも高性能な分子を最終的なプローブ分子として選定する予定である。また、選定したプローブ分子を用いて生細胞内カドミウムイオンイメージングを行い、イメージングツールとしての有用性を確認する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
初年度は設計したプローブ分子の各種誘導体合成に多額の費用を要する予定であったが、非可逆的プローブの候補化合物が予想以上に早く得られたこと、および有用な可逆的プローブが早い段階で見出されたことにより、合成実験の分量が当初の予定よりも減少し、合成実験よりも比較的費用がかからない分析実験の分量が増加したため次年度使用額が生じた。 これまでに上述の可逆的プローブのような有用なプローブが得られてきているため、次年度は当初計画していたプローブ候補化合物の各種誘導体の合成および分析に加え、開発したプローブ分子を用いた生細胞内カドミウムイオンイメージングを行うことにし、その実験の試薬や器具の購入に初年度未使用分を充てる予定である。
|