研究課題/領域番号 |
25860033
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
小原 一朗 (小原 一朗) 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (60581775)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 組成式解析 / CSI-MS / 質量分析 / 錯体 |
研究概要 |
本研究は,コールドスプレーイオン化質量分析法(CSI-MS)によって観察可能な弱い相互作用からなる化合物または不安定化学種を標的とした反応追跡を行うことを目的とした.本研究で用いるCSI法は対象化学種をそのまま観測できるが,イオン化された化学種は主に溶媒やプロトン付加体として観測される.そこで申請者は,予想される生成物と溶媒の組み合わせによって精密質量を求める計算ソフトを自作した.一般に元素の組み合わせによる解析では,原理的にただ一つの解となる組成式を求められないが,本組成式解析法を用いると,解の数を減らすことができ,化学的な考察から帰属が可能であることを明らかにした. 次いで,有機化学反応の不安定中間体の検出について,イミン形成反応を検討した.本反応は,アミンとカルボニル化合物を用いるが,単体におけるカルボニル基を有する化合物の検出感度が十分でない問題が生じた.また,本研究で用いた高分解能フーリエ変換型質量分析では低質量数領域の感度が装置の特性上悪い点も反応追跡の問題となった. 一方で,金属と複数の配位子からなる配位化合物の追跡を行った.金属の配位環境を覆う三座配位子と金属同士を結びつける直線状配位子の割合を変化させて混合後,コバルト溶液を加えて錯形成を行い,CSI-MS法による生成物追跡が可能であるか検討した.その結果,配位子の割合に応じて,各々の配位子と金属からなる錯体に由来するイオンピークの増減が観測され,さらに異なる二つの配位子を同時に含む錯体の生成が観測された.また,ESI-MS法では,異なる配位子を同時に含む化学種は観測されなかった.本結果は,金属と配位子の種類と数を同時に決定することができ,且つ,弱い結合である配位結合を保持できるCSI-MSでのみ達成される追跡であり,一般に反応生成物の追跡で用いられるNMR法では追跡できない新しい反応追跡法であるといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CSI-MS法によって得られるイオンピークの帰属において,新しい解析方法を提案し,それが有用である事を明らかにした.本計画における基礎的な部分であり,解析手法の準備計画は達成したといえる.また,CSI-MS法により追跡可能な反応について新しい知見が得られた.有機化学反応追跡は,用いる基質のイオン化という点が問題となっており,検討を要する点が明らかとなった.一方で,金属と配位子からなる配位化合物の追跡を行ったところ,配位子の濃度比に応じて,生成する配位化合物が変化する様子をとらえることができた.当初の計画では,反応追跡を順次行う予定であったが,反応として適切な系を見出すために順番に固執することなく取り組むことでCSI法の適用範囲や有用性を明らかにしており,計画がおおむね遂行されているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
新規に開発した組成式解析法はCSI法で得られたスペクトルを解析するうえで有用であるので,広く一般で用いられるようにプログラム上のエラーを検討し,ソフトの配布準備を行う.有機化学反応の不安定中間体の検出については引き続き適切な系を検討する.また,金属と複数の配位子からなる配位化合物の錯形成反応の追跡を行う.本系は配位化合物が金属を含むため非常にイオン化しやすいために追跡する系として非常に適していると考えられるので,具体的に追跡できる化学種や構造体の議論が可能か検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金は1万円以下であり,研究用途の消耗品としては一つ二つ分相当である.この金額は日々の実験で必要となる溶媒などの消耗品によって容易に消費しうるものであるが,万が一それらの溶媒が欠如した場合に実験の現状を維持できなり,それらの復旧のために数段階前に渡って実験をやり直す必要や数週間以上の日数がかかる可能性がある.つまり,この金額は研究を行う上で必要な消耗品の消費状況によって生じた金額である. 上記の理由より,消耗品の消費状況で生じるものであり,この金額は消耗品の使用状況で消費する予定である.
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