研究課題
若手研究(B)
以前我々は、肺に転移する癌細胞表面上のコンドロイチン硫酸と肺に特異的に発現しているReceptor for Advanced Glycation-End product (RAGE)が結合することで、癌細胞が肺へ転移することを見出した(Mizumoto et al., J Biol Chem 2013)。RAGEは、がんやアルツハイマー病・糖尿病など早期に治療法や治療薬が広く求められている重要な疾患に深く関与している。そこで本研究では、RAGEノックアウトマウスを用いて、がんやアルツハイマー病・糖尿病におけるRAGEとコンドロイチン硫酸の役割の解明を目指すことを目的とする。今年度はRAGEノックアウトマウスにルイス肺癌細胞株を移入し、野生型マウスと比較して、肺への転移能を調べたところ、有意にその転移が抑制された(未発表)。したがって、癌細胞の肺への転移はRAGEが深く関与していることが示唆された。また、RAGEノックアウトマウス由来の神経細胞をコンドロイチン硫酸-E上で培養すると、神経細胞の突起伸長が抑制された(未発表)。さらに、RAGEとコンドロイチン硫酸-Eとの結合を阻害する物質をスクリーニングするため、コンドロイチン硫酸-Eを96穴プレートに固相化し、RAGEタンパク質との結合することを指標にアッセイ系を開発した(未発表)。組換え型RAGEを恒常的に発現する酵母を作製し、精製法も確立した。その他の成果としては、コンドロイチン硫酸と癌などに関わる増殖因子との結合親和力を網羅的に明らかにした。コンドロイチン硫酸合成不全による遺伝病を4種類同定した。これらの成果を踏まえ、国際誌に原著論文4報、総説2報、解説1報、著書の1節を発表し、学会での発表を3回行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画以上に進展している理由としては、研究計画書に記載した内容に沿って概ね遂行できている。具体的には、1)RAGEノックアウトマウスにおける癌細胞の肺転移に及ぼす影響、2) RAGE KOマウスの海馬神経およびアルツハイマー病モデルに及ぼすCS-Eの影響、3) RAGE-CS-E相互作用の阻害を指標にしたスクリーニング系の開発の3点についてである。さらに、日本や海外のグループらと共同で、コンドロイチン硫酸合成異常による遺伝病を4種類も発見し、国際的に評価の高い雑誌(American Journal of Human Genetics, Human Molecular Genetics, Human Mutation)に掲載された。これらの成果を基に国際的に有名なJournal of Biological ChemistryとFEBS Journalに総説を発表した。今年度の成果発表をまとめると、査読有りの国際誌に原著論文4報、総説2報、解説1報、著書の1節を発表し、学会での発表を3回行い、本研究で得られた成果の国民・社会への発信に大いに寄与している。さらに、研究内容についても日本人の死因の1位を占める「がん」をターゲットとし、本研究の遂行によって、新しい作用機序の抗癌剤のシーズを開発できると考えている。さらに、RAGEは多くの疾病に関わるので、それらに対する創薬シーズになる可能性を秘め、将来的な国民の医療・治療法の開発に貢献出来ることも期待できるからである。
今年度、RAGEノックアウトマウスによる肺癌転移阻害、RAGEノックアウトマウスの神経細胞の突起形成抑制などの基礎的な知見が得られたことから、今後これらの知見を基にさらに「RAGEとコンドロイチン硫酸との相互作用による癌やアルツハイマー病の分子メカニズム」について探求し、抗癌剤を含めたRAGEに起因する様々な疾患(アルツハイマー病、糖尿病、動脈硬化、炎症、肺線維症など)に対する基盤研究を推進する。具体的には、1) RAGE KOマウスにおける癌細胞の肺転移に及ぼす影響、2) RAGE KOマウスの海馬神経およびアルツハイマー病モデルに及ぼすCS-Eの影響、3) RAGEおよびCSが関わるシグナル伝達の解析、4) 肺癌およびアルツハイマー病患者のCSおよびRAGEの定量、5) RAGE KO/糖尿病モデルマウスにおけるCSの糖尿病性合併症の阻害効果等である。
7,079円の次年度使用額が生じた理由としては、消耗品の試薬が海外からの輸入品であったため、遅延したからである。研究の遂行上は、何ら問題はない。当該試薬の購入に当てる。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
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