研究課題/領域番号 |
25860041
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
巻出 久美子 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (30519773)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | リゾリン脂質 / マスト細胞 / カルシウムチャネル |
研究概要 |
本研究では、マスト細胞上に想定されるLysoPSターゲット分子の同定を目指しているが、今年度は特にTRP(Transient Receptor Potential)チャネルに着目した解析を進めた。まず、LysoPSによる脱顆粒促進能が最も顕著に認められるラット腹腔マスト細胞(RPMC)におけるTRPチャネルの発現を解析した。ラットから回収した腹腔マスト細胞から密度勾配遠心法により精製したRPMCからRNAを抽出した。定量RT-PCRにより、全28種のTRPチャネルの発現を解析した結果、TRPC6、M7、V2、ML1が高発現していることがわかった。さらに中程度の発現を示す遺伝子は、TRPC1、C2、M2、M4、V1、ML3、P2、P5であった(図1)。これらの発現が認められた遺伝子を優先的にTRPチャネルファミリー分子のクローニングを行った。しかし、ラットの遺伝子情報が不足していること、および遺伝子が長いこと(2~6kb)ことから、想定以上にクローニングに手間取った。最終的には、M7(約5.6kb)を除く27遺伝子のクローニングを終了することができた。 クローニングした遺伝子のLysoPS反応性の評価には、我々が最近開発したTGFalpha切断アッセイを用いる。HEK293細胞にTRPチャネルとアルカリホスファターゼ(AP)融合TGFalphaを一過的に発現させ、LysoPS刺激により膜型プロテアーゼによって切断される上清中のAP活性を測定することにより、チャネルの活性化を評価する。進行中の実験ではあるが、これまでにTRPV1を発現させた細胞においてわずかなLysoPS応答性が認められた。しかし、TRPV1のリガンドとして報告されているカプサイシンに比べると数十倍低く、今後より高い反応性の認められるTRPチャネルの探索を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではLysoPSによるマスト細胞の脱顆粒反応促進を担うターゲット分子の同定を目的としている。また、その候補分子として、近年リゾリン脂質反応性が報告されているTRPチャネル分子ファミリーに着目して解析を進めている。今年度は、研究の初段階となるラットTRPチャネル28遺伝子のクローニングにおいて、ラットの遺伝子配列が十分に解析されていないこと、およびチャネル分子が大きいことから、想定以上に時間を要してしまった。しかし、最終的には27遺伝子のクローニングを終了し、唯一得られなかったrat TRPM7においてもマウスのクローンは取得した。よって、当初の計画よりは若干遅れているが、ツールが揃い、次年度はよりスピーディに解析を進めていくことができると考えている。 また、当初の計画ではマスト細胞におけるLysoPSターゲット分子の評価において、候補遺伝子をRBL-2H3細胞に過剰発現してLysoPS反応性を解析する予定であったが、より直接的に関与を示すため、RPMCにsiRNAを導入してノックダウンすることにより解析するよう変更・改善する。現在、既にRPMCへのsiRNAの導入に着手しており、系の確立の見通しは明るいと感じている。今後さらに詳細な検討を加えることにより、スクリーニングから得られたTRPチャネル分子のマスト細胞脱顆粒への関与をより直接的に評価できる系で解析を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
今年度クローニングしたTRP分子をTGFalpha切断アッセイにてLysoPS応答性の評価を行う。反応性が認められた分子が本当にマスト細胞上で機能するLysoPSターゲットか否かを検証することが重要となる。そのため、RPMCにおいてTRPチャネルの候補分子のsiRNAによるノックダウンを行い、LysoPSによる脱顆粒反応を評価する。一般的に初代培養細胞に対するsiRNAの導入は容易ではなく、特にRPMCへの導入に関する報告は一切ない。そこで、エレクトロポレーションを用いた導入の詳細な条件検討を行い、評価が可能な系の確立を行う。siRNAの導入により脱顆粒反応の抑制が認められた分子については、最終的にKOマウスを入手して、腹腔マスト細胞のLysoPS応答性の有無を確認する予定である。 これまでの知見から、マスト細胞の脱顆粒に関与するLysoPSターゲット分子の候補としてTRPチャネルが有力と考え研究を進めているが、上述の解析から目的とする分子の同定にいたらなかった場合には、他のカルシウムチャネル分子にも範囲を広げ解析を進めていく。 これまでの解析から、標的としているマスト細胞上のLysoPSターゲット分子は、コンカンバリンA(Con A)誘発性肝炎におけるLysoPSの抑制効果に関与することが分かっている。しかし、肝炎抑制時にLysoPSターゲット分子がマスト細胞上で機能しているのか、それとも他の細胞群にも発現していて機能するのかは不明である。そこで、上述の実験によりターゲット分子(候補)を同定した後、Con A肝炎時の免疫系細胞における発現解析を行う。さらに、in vitroの系でLysoPS応答性を解析する。
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