本研究ではリゾホスファチジルセリン(LysoPS)によるマスト細胞の脱顆粒反応促進を担うターゲット分子の同定を目的としている。また、その候補分子として、近年リゾリン脂質反応性が報告されているTRPチャネル分子ファミリーに着目して解析を進めている。今年度は、ラット腹腔マスト細胞(RPMC)にsiRNAを導入してTRPチャネルファミリー分子をノックダウンすることによりLysoPS応答性に関与する分子の同定を試みた。一般的にRPMCの培養および初代培養細胞へのsiRNA導入は難易度が高いとされているが、詳細な検討により、エレクトロポレーションによるsiRNAの導入で、細胞の生存率40~60%および50~70%の導入効率を達成することができた。この系を用い、前年度RPMCにおいて高発現していることを見出したTRP分子について発現抑制率と脱顆粒反応性を調べた。一次スクリーニングで、TRPM7分子の発現抑制により脱顆粒反応の抑制が認められた。そこで、複数のコンストラクトについてさらに解析を行ったところ、発現抑制効果と脱顆粒抑制効果に相関性が認められず、一部のコンストラクトにおけるオフターゲット効果である可能性が高いと判断した。よって、本ストラテジーによる目的遺伝子の同定には至らなかった。 これまでに有機合成したLysoPS誘導体を用いた解析から、LysoPSによるマスト細胞の脱顆粒促進反応において、メチル基を導入したリゾホスファチジルスレオニン(LPT)がLysoPSよりも約十倍強い活性を有することを見出している。今年度、さらにLysoPS誘導体の脱顆粒促進活性を評価し、LysoPSに比べて約100倍強力なスーパーアゴニストを見出した。誘導体が結合したカラムを用いたアフィニティー精製や発現クローニングに有用と考えられる。
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