研究課題
若手研究(B)
本研究の目的は,ジアシルグリセロール(DAG)キナーゼδ(DGKδ)を分子標的とした新たな2型糖尿病治療法開発(新規薬剤・食餌療法開発)へ向けて,1. DGKδ特異的活性賦活剤のスクリーニング・開発,2. DGKδの転写・発現調節機構の解明,3. DGKδのDAG脂肪酸鎖選択性を解明することである.研究計画書に基づき1-3についての研究を遂行し,以下の成果を得た.1. スクリーニングには大量のDGKδの精製タンパクを必要とする.そこで,大腸菌低温発現系を用いて発現させたDGKδを硫安分画により濃縮した後,陰イオン交換クロマトグラフィー及びNi樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーを用いて,高純度(純度90%以上)のDGKδを精製した.精製したDGKδはDGK活性を示した.2. Exon 1近傍に脂肪酸に関連する転写因子PPARαの結合配列の存在を類推した.従って,筋管に分化させたマウスC2C12細胞に種々の脂肪酸を添加したところ,ミリスチン酸(14:0)はDGKδのタンパク発現量を濃度依存的に増加させ,さらに,mRNA量も増加させることがわかった.これらの結果から,DGKδはミリスチン酸により転写段階において正に発現制御されることが示唆された.3.DGKδは筋細胞において高濃度グルコース刺激(5分)により活性を増加させる.このグルコース刺激により,C2C12筋芽細胞の種々のPA分子種の量が増加するが,DGKδがどの分子種の産生に関与しているのかをLC/ESI-MSを用いて調べた.その結果,siRNAを用いてDGKδの発現量を抑制したとき,パルミチン酸(16:0)を含有する30:0-, 32:0-, 34:1-, 34:0-PAの産生が抑制された.これらの結果から,DGKδはグルコースに応答してパルミチン酸を含有するDAG分子種に選択性を示すことが考えられた.
2: おおむね順調に進展している
薬剤スクリーニングに関する研究においては,大腸菌低温発現系を用いて発現させたDGKδの高純度の精製法を確立することに成功した.しかし,計画していたスクリーニングについては,高純度の精製法の確立に一定の時間を必要としたため年度内の実施は困難であった.一方で,食餌療法開発に向けた研究においては,ミリスチン酸が転写段階でDGKδの発現を正に制御すること,そしてDGKδはグルコースに応答してパルミチン酸を含有するDAG分子種に選択性を示すことが考えられ,予定通りの成果を得た.従って,全体的には本研究は平成25年度の実施計画に基づきおおむね順調に進展していると判断した
1. 薬剤スクリーニングのために,大腸菌低温発現系を用いて活性を有するDGKδを高純度に精製する系を確立することに成功した.従って,今後はDGKδを大量に調整した後,マイクロプレート・ADP-発光検出系を用いた独自のハイスループットDGK活性測定系を用いてスクリーニングを行う.2. 食餌療法開発に向けた研究においては,DGKδは転写段階でミリスチン酸が転写段階でDGKδの発現を正に制御することから,26年度は転写因子(PPARα)が結合するDGKδのpromoter配列をルシフェラーゼ発光法を用いて同定する.さらに,脂肪酸に関連する転写因子(PPARα)を骨格筋細胞(C2C12筋芽細胞)に高発現させ,ミリスチン酸添加時のDGKδ転写・発現の増加を確認し,栄養関連転写因子の同定を行う.栄養関連転写因子を同定した後,ミリスチン酸を培地中に添加し,糖取り込み促進効果を調べる.また,PPARαのみならず,糖・脂質代謝に関与するPPARγとPPARδを含めた他の因子についてDGKδの転写・発現と糖代謝との寄与について検討を行う.さらに脂肪酸のみならず,他の栄養因子の探索も行う.3. siRNAを用いた実験系により,DGKδはグルコースに応答してパルミチン酸を含有するDAG分子種に選択性を示すことが考えられたことから,今度は逆にDGKδを高発現させたときにも,同様の選択性を示すのか否かを確認する.また,DGKδはグルコースに応答してどの代謝経路に由来するDAGを基質とするのかを各種代謝経路の阻害剤を用いて明らかにする.さらに,DGKδによって代謝されるDAG分子種の糖代謝への影響を評価するために,培地中の特定の脂肪酸分子種(DGKδによって代謝されるDAG分子中に含まれる脂肪酸)を添加し,PKC活性の増加と糖取り込み能の低下を調べる.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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