ヒトの細胞には運動性繊毛と非運動性繊毛が存在する。運動性繊毛(鞭毛)を持つ精子は鞭毛の運動によって卵子まで到達し受精する。精子の運動に異常がある場合は男性不妊となることが多い。非運動性繊毛(一次繊毛)は、化学的シグナル、光刺激、機械刺激などさまざまなシグナルを感知する細胞のアンテナとしての働きを持っている。一次繊毛の異常は、嚢胞腎、網膜変性、内臓逆位、多指症、病的肥満、精神遅滞などさまざまな疾患の原因になる。そのため、繊毛の働きに関係する遺伝子を同定し、その働きを解明することは基礎生物学においてだけでなく医学的にも非常に重要である。 本研究では新規の繊毛関連遺伝子を同定しその機能を解析することで、繊毛の異常に起因する疾患の分子メカニズムの解明を目指した。新規の繊毛関連遺伝子の候補として低分子量GTPaseのRab-Likeファミリー(RabL2-RabL5)に着目した。繊毛の形成時にこれらの遺伝子発現が上昇することや、繊毛・鞭毛を持つ生物種で保存されていることなどから、新規の繊毛関連遺伝子ではないかと予想した。実際にRab-Likeファミリーの遺伝子をクローニングし培養細胞に発現させ局在を調べたところ、RabL2が繊毛基部の基底小体に局在することがわかった。次にRabL2結合タンパク質を探索した結果、Centrosomal protein 19k Da(Cep19)を見出した。Cep19遺伝子欠損マウスは精子鞭毛の運動異常と病的肥満の表現型を示すことが報告されている。これらの結果から、RabL2-Cep19複合体は鞭毛・繊毛の基底小体において重要な働きをしていることが示唆された。
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