研究課題/領域番号 |
25860045
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
太田 紘也 京都大学, 薬学研究科(研究院), 研究員 (40638988)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | neudesin / 分泌性因子 / エネルギー消費の亢進 / 交感神経の活性化 / 脂肪酸酸化の亢進 |
研究実績の概要 |
代表者は分泌性因子neudesinの遺伝子欠損マウス(以下KOマウス)を用いて、neudesinの生理的意義の解明を目指している。特にneudesin KOマウスが高脂肪食誘導性肥満に耐性を示すことに着目して、エネルギー代謝におけるneudesinの役割の解明、さらに将来的にneudesinを抗肥満薬の標的として利用する上で基盤となる知見を得ることを目指している。本研究計画で代表者は、neudesinがエネルギー消費と脂質の利用に与える影響の解明ならびにneudesinによって制御されるシグナル経路およびneudesin受容体の同定を目指している。 代表者は本年度に次の3つの成果を得た。①: neudesin KOマウスにおいて心拍数の上昇、脂肪組織および血漿中のノルエピネフリン濃度の上昇、すなわち交感神経系の活性化が認められることを明らかにした。この交感神経の活性化がneudesin KOマウスで認められたエネルギー消費の亢進を引き起こしている可能性が高いと考えられる。②: 摂食量と糞中脂質量から脂質の吸収率を概算したところジェノタイプを問わずに99%以上の脂質が吸収されることが判明した。従ってneudesin KOマウスの脂質の吸収に異常はないと考えられる③: 神経系由来の株化細胞であるneuro2aにneudesinを添加することでERKが活性化する。このneudesinによるERK活性化は、カンナビノイド受容体アンタゴニスト(SR141716)の共添加によって抑制された。従って、一つの可能性としてneudesinはカンナビノイド経路を活性化する可能性があり、その作用はカンナビノイド受容体を介して発揮される可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画はおおむね順調に伸展している。代表者は本研究計画でneudesinがエネルギー消費と脂質の利用に与える影響の解明ならびにneudesinによって制御されるシグナル経路およびneudesin受容体の同定を目指してきた。当該期間内にneudesin KOマウスでは交感神経系の活性化が認められ、エネルギー消費亢進の一因である可能性が高いこと、脂質の吸収には特筆すべき異常がないことを見出した。さらに交感神経の節後ニューロンのモデルとなるPC12細胞にneudesinを添加したところノルエピネフリン(NE)産生の律速酵素であるチロシンヒドロキシラーゼ(Th)の発現が抑制される可能性があることも発見した。 さらにneudesinによって制御されるシグナル経路の解明およびneudesin受容体の同定も試みている。現段階では正確なシグナル経路および受容体の同定には至っていないが、神経系の株化細胞であるneuro2a細胞にneudesin添加することによって認められるERKの活性化が、カンナビノイド受容体のアンタゴニストであるSR141716を共添加することで抑制される可能性があることを発見した。 以上の結果を鑑みると、当初の目標を完全に達成したとは言えないものの、一定の成果は挙げたものと考えることができ、研究はおおむね順調に伸展していると考えることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
neudesin KOマウスが示した抗肥満の表現型は、交感神経の活性化に起因するエネルギー消費の亢進が原因であると予想される。今後の研究方針として最優先するのはneudesin KOマウスが呈した交感神経の活性化がどの程度体重に影響するか明らかにすることである。具体的な方策としては、neudesin KOマウスに6-ヒドロキシドパミンを投与して交感神経を破壊した場合に、抗肥満の表現型が消失するかどうか明らかにする。予備的な検討の結果、交感神経破壊によって若干の表現型消失は認められるものの、抗肥満の表現型そのものは残存して、褐色脂肪における脂肪酸酸化亢進の表現型も残る可能性が高い。従って、交感神経系の活性化がneudesin KOマウスの抗肥満の表現型に寄与すること自体は否定できないものの、交感神経の活性化のみで説明することも不可能である。ひとつの可能性としてneudesinが直接褐色脂肪に作用して、褐色脂肪細胞の機能を制御していることが考えられる。そこで、培養褐色脂肪へのneudesin添加実験などを行うことで、neudesinが褐色脂肪細胞の機能に与える影響を解析する。 また、neudesinによって制御されるシグナル経路の解明およびneudesin受容体の同定に関しても、昨年度までの研究を継続・発展させる。アンタゴニスト(SR141716)投与によってカンナビノイド受容体(Cb1r)薬理的に受容体を阻害した場合にneudesinによるERK活性化が認められなかったので、neudesinはCb1rを介して作用する可能性がある。一方で近年ではSR141716の特異性に疑問を投げかける報告も認められる。そこで、neudesinがCb1rを介して作用するか、より正確に評価するためにsiRNAを用いたneudesinノックダウン実験を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
未使用額が発生した原因は、研究報告の変更を余儀なくされたことに起因する。本研究計画において当初は、分泌性因子neudesinが生体の脂質利用に影響すると考えて、実験計画および研究費の使用計画を立てていた。しかしその後の結果から、neudesinは脂質の利用には影響しないこと、さらに当初は想定していなかった内分泌系・交感神経系への関与の可能性が浮上するなど、研究計画の大きな変更が必要になり未使用額が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
未使用額の使用用途に関しては、これまで通り実験に必要な消耗品類(抗体やELISAキット、細胞培養用のプラスチック器具類)の購入に使用する予定である。研究計画の変更(内分泌系・交感神経系への関与の可能性の検討)に従って適切に使用する予定である。また2015年4月に東京で開催される第88回日本内分泌学会に参加予定であり、出張および学会参加に必要な経費も計上する予定である。
|