研究課題/領域番号 |
25860058
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮内 浩典 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 研究員 (50619856)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ウイルス性肺炎 / 肥満細胞 / 炎症制御 |
研究概要 |
平成25年度にはインフルエンザウイルス感染が肥満細胞を活性化するメカニズムについて研究を行う予定であった。具体的にはインフルエンザウイルス感染マウスにおける肥満細胞でのRNAseq解析と、IL-33欠損マウスを用いたインフルエンザウイルス感染実験を行うことが予定されており、これらの実験は予定通り遂行された。 1.インフルエンザウイルス感染マウスにおける肥満細胞のRNAseq解析、 我々は肥満細胞を欠損させたマウスではインフルエンザウイルスによる肺炎が減弱することを見出し、インフルエンザウイルス肺炎における肥満細胞の役割を明らかにする目的で、感染マウスより肥満細胞をソートしRNAseqによるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、感染後3日目において肥満細胞でのIFN関連遺伝子の発現上昇が認められ、肥満細胞がウイルス感染により活性化されていることが明らかとなった。また、感染マウスの肥満細胞において好中球の遊走に関与するケモカインの発現の顕著な増加が認められた。これらの結果より肥満細胞はウイルス感染により活性化され好中球を遊走させるケモカインを放出することで、好中球による肺炎を増強する可能性が考えられる 2.IL-33欠損マウスを用いたインフルエンザウイルス感染実験、 IL-33はウイルスに感染した上皮細胞やマクロファージから放出され、肥満細胞上にはIL-33受容体が発現するため、初期感染細胞と肥満細胞を結ぶ因子である可能性がある。この可能性について検証するため、IL-33欠損マウスにインフルエンザウイルスを感染させ、肺の炎症について解析を行った。その結果、IL-33欠損マウスでは、肺の炎症が増悪することが明らかとなった。IL-33欠損マウスではウイルス感染前から肺における好酸球と好中球のバランスに異常が認められ、このことがウイルス感染時の肺炎の増悪につながっていると考えられる
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に予定していた実験はおおむね予定通り遂行された。インフルエンザウイルス感染マウスにおける、肥満細胞のトランスクリプトーム解析からは、肥満細胞がインフルエンザウイルス感染によって活性化され、好中球の動員するケモカインの放出を介してウイルス性肺炎を正に制御している可能性が明らかとなった。したがって、この実験に関しては、期待されていた通りの結果を得ることができており、研究は順調に進展していると評価できる。 また、IL-33欠損マウスにインフルエンザウイルスを感染させ、ウイルス性肺炎を解析する実験においては、予想に反して、IL-33欠損マウスにおいて、野生型マウスに比較してウイルス性肺炎の増強が認められ、IL-33が、肥満細胞の活性化因子であるか否かを特定することはできなかった。しかしながら、この実験からIL-33が肺の好酸球ー好中球バランスの維持に重要な役割を演じていることや、このバランスの乱れが、ウイルス性肺炎の増悪につながることが明らかとなった。この実験よりウイルス性肺炎の制御にはIL-33経路も肥満細胞とは違った形で役割を担うことが示唆されており、ウイルス性肺炎の発症メカニズムの解明という本実験課題において、非常に意義のある実験であったと評価できる。どのような因子が肥満細胞の活性化にかかわっているのかについては、初期感染細胞である上皮細胞やマクロファージのトランスクリプトーム解析が進行中であり、その結果によって補完することが期待できるため、今回の実験においてIL-33がウイルス性肺炎における肥満細胞活性化因子であることを同定できなかったことは、実験計画全体の進展においては大きな支障にはならないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に行った実験より、インフルエンザウイルス感染により肥満細胞が活性化され、その肥満細胞から放出されるケモカインによって好中球が動員されることでウイルス性肺炎が増強される、というスキームが示唆された。次年度においてはこの結果を踏まえ、このスキームの検証を行うことを主な目標としたい。具体的には今回同定されたキーとなるケモカインまたはケモカインレセプターの欠損マウスを用いた実験や、これらのケモカインに対する抗体を投与する実験をおこない、インフルエンザウイルス感染によって放出される、肥満細胞由来のケモカインによって動員された好中球が肺炎を引き起こすことを明確にしていく。また、インフルエンザウイルス感染がどのようにして肥満細胞の活性化を引き起こすのかを明らかとするために、インフルエンザウイルス感染マウスより、初期感染細胞である肺胞上皮細胞ならびにマクロファージをフローサイトメーターによりソートし、RNAseqによるトランスクリプトーム解析を行う。これによって、肥満細胞活性化因子の候補の絞り込みをおこなう。さらに、可能であれば、それらの候補因子を特異的抗体などを用いてブロックした状態で、インフルエンザウイルス感染実験を行い、ウイルス性肺炎を解析することによって検証することにより、因子を確定し、肥満細胞の活性化機構に迫りたいと考えている。研究遂行における課題としては、検証する対象となる因子のノックアウトマウスが存在しなかったり、抗体によるブロックが困難であったりすることが考えられる。その対処法の一つとして、CRISPRによるノックアウトマウスの作成を並行して進めていくことで、データを補完していく、もしくは検証をさらに強固なものとしていくことを予定している。
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