インフルエンザウイルスで起こる呼吸器官での炎症制御と組織障害の分子基盤を理解するために、我々はマスト細胞に着目し、マスト細胞が存在しないマウスではウイルス感染による肺での炎症症状が軽減することを見いだした。 ウイルス肺炎の成立機序について明らかとするため、肺炎症に関わる自然免疫担当細胞(肺胞マクロファージ・好中球・マスト細胞)を対象として、トランスクリプトーム解析を行ったところ、マスト細胞を欠失させたマウスでは、肺胞マクロファージや好中球でおこるインターフェロン関連遺伝子やRNAウイルスのセンシングに関わるRIG-I経路関連遺伝子・ケモカインの発現が軒並み抑制傾向にあった。 ウイルス感染マウスにおけるマスト細胞の動態を調べるために組織学的解析とFACS解析を行ったところ、インフルエンザウイルス感染マウスの気道ならびに肺において感染後に速やかにマスト細胞の動員が生じることが明らかとなった。また、マスト細胞のトランスクリプトーム解析では、RIG-IおよびMDA5に関連する分子の発現上昇が認められ、マスト細胞がウイルス感染に鋭敏に応答していることが明らかとなった。 次にマスト細胞において、ウイルス感染に関わる遺伝子の経時的発現を探索したところ、H1N1ウイルスのヘマグルチニンを特異的に認識するセリン型のプロテアーゼTMPRSS2の発現が感染後3日でマスト細胞特異的に上昇していた。この結果よりマスト細胞が感染初期における、気道、肺での感染性ウイルスプロデューサーとして重要な役割を演じることが示唆された。 一連の本研究からマスト細胞が感染初期におけるウイルス増殖とウイルスの検出の両面に重要であることが明らかとなり、マスト細胞の機能を制御することにより、インフルエンザウイルスによるウイルス性肺炎を軽減できる可能性が示された。
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