研究課題
若手研究(B)
膜リン脂質代謝に関わる酵素ホスホリパーゼA2 (PLA2)には30種類以上の分子種が同定されており、このうち、 細胞外分泌性PLA2 (secreted PLA2)は11種類の分子種からなり、各分子種は固有の生体内機能を持つ。本研究では、sPLA2-IIE, -IID, -III, -X の4種のアイソザイムを対象に、遺伝子改変マウスを駆使してメタボリックシンドロームの表現型とその作用メカニズムを精査し、各アイソザイムの新しい病態生理学的機能を解明する。本年度はsPLA2-IIE, -IID, -IIIについて解析を行った。Adipocytic sPLA2-IIE:高脂肪食負荷sPLA2-IIE欠損マウスでは内臓脂肪の蓄積、脂肪肝、高脂血症が抑制された。リポタンパクのリピドミクス解析の結果、sPLA2-IIEは微量リン脂質 (ホスファチジルエタノールアミン, ホスファチジルセリン)を選択的に分解することによりその性質を変化させ、組織への脂肪蓄積を促進するものと考えられた。Hematopoietic sPLA2-IID:高脂肪食負荷sPLA2-IID欠損マウスでは肥満、インスリン抵抗性が増悪した。脂肪組織において炎症性のM1マクロファージのマーカーの発現が増加していたことから、高脂肪食負荷sPLA2-IID欠損マウスにおけるインスリン抵抗性の増悪の一部は脂肪組織の炎症の増悪に起因するものと考えられた。Preadipocytic & hematopoietic sPLA2-III :高脂肪食負荷sPLA2-III欠損マウスではマスト細胞の脂肪組織への遊走および活性化が著しく低下していた。また共培養系において、前脂肪細胞は野生型マウス由来の未成熟マスト細胞(BMMC) の成熟を促進したが、sPLA2-III欠損由来BMMC の成熟は不十分であった。マスト細胞のsPLA2-IIIの寄与についてマスト細胞欠損マウスを用いたsPLA2-III欠損BMMCの移植再構成実験から、マスト細胞に発現しているsPLA2-IIIはマスト細胞の脂肪組織への浸潤に重要であり、脂肪組織の炎症に部分的に関与するが、インスリン抵抗性には影響しない事が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画に従い、sPLA2-IIE, -IID, -III の3種のアイソザイムの遺伝子改変マウスを使用して高脂肪食負荷実験を行い、sPLA2-IIEはリポタンパク質の微量リン脂質 (ホスファチジルエタノールアミン, ホスファチジルセリン) を選択的に分解することによりその性質を変化させ、組織への脂肪蓄積を促進すること、sPLA2-IIDは脂肪組織において何らかの抗炎症性脂質を遊離し、炎症を改善することで、メタボリックシンドロームに対して抑制的に作用すること、マスト細胞のsPLA2-IIIが一部メタボリックシンドロームの進行に重要であることを明らかにした。以上のことから、おおむね研究計画は順調に進展していると判断される。
平成26 年度は、前年度の解析 (sPLA2-IIE, -IID, -III) を継続し、完成させるとともに、sPLA2-X について遺伝子改変マウスを駆使してメタボリックシンドロームの表現型とその作用メカニズムを精査する。さらに、将来の臨床展開に向けてのアプローチとして、ヒトの脂肪組織におけるsPLA2アイソザイムの発現を定量的PCR により調べ、、各アイソザイムの発現量と病態の進行度との相関性を検討する。
当初の見込みより消耗品の使用額が抑えられたため次年度使用額が生じた。次年度の研究費の使用計画としては、国内学会出張費、投稿論文の英文校正費と論文投稿費および印刷費として使用する。残りの経費を消耗品に充てる。試薬消耗品として遺伝子関連試薬 [遺伝子工学用酵素、PCRプライマー、免疫化学関連試薬、染色用試薬]、細胞培養試薬 など、器具消耗品として細胞培養フラスコ、遠心チューブ、マイクロプレート、また高脂肪食さらに遺伝子改変マウスの管理維持費として使用する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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