申請者は、2型糖尿病の新たな発症機序の解明を目的に、L6骨格筋におけるインスリン情報伝達に対する細胞膜メタロプロテアーゼADAMの役割を検討した。インターロイキン(IL)-1は、ERK/NF-κBおよびJNK/AP-1シグナルを活性化させ、ADAM17の発現を顕著に増加させたが、ユビキタスに発現する他のADAM9、ADAM15、ADAM19の発現には影響しなかった。 インスリンシグナル伝達への影響をAktのリン酸化を指標に検討したところ、IL-1の24時間処理は、インスリンによるAktのリン酸化に影響しなかった。興味深いことに、IL-1処理後、エンドセリン(ET)-1で20分刺激すると、エンドセリン-1単独時に比べて、インスリンによるAktのリン酸化が有意に抑制された。次に、申請者はADAM17に対するshRNAアデノウイルスベクター(shADAM17)を作製し、IL-1によるADAM17の発現増加をshADAM17により抑制した条件下、同様の実験をしたところ、ET-1によるAktのリン酸化抑制は解除された。これらの結果は、IL-1に誘導されたADAM17がトリガーとなり、ET-1がインスリン情報伝達を抑制することが示唆された。また、ワイルドタイプのADAM17をアデノウイルスにより過剰発現させ、ET-1を処理すると、ET-1単独処理に比べてインスリンによるIRS-1のチロシンリン酸化およびAktのリン酸化が有意に抑制された。 以上の結果から、ADAM17はインスリン情報伝達の障害に関与する重要な分子であることが示唆された。 今後、ET-1によるADAM17を介したインスリンシグナル伝達抑制の詳細なメカニズムおよびADAM17の生理的意義について検討する。
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