本研究では、新規mTOR結合タンパク質の同定から、スタチン依存的なオートファジー・細胞死誘導機構の解明を目指した。平成26年度では、前年度より引き続きmTORと相互作用するタンパク質の同定を試みた。タンデムtag付mTORの恒常的発現株は作製できず、横紋筋肉腫由来A204細胞にLipofection試薬を用いて一過的に発現させて、相互作用因子の探索を行った。免疫沈降の条件検討を行い、スタチン添加によって結合が変化する因子を解析した。mTOR複合体に含まれる代表的なタンパク質はウェスタンブロッティングで結合が確認できたが、スタチンの影響で結合が変化するタンパク質は同定されなかった。結合タンパク質が一過的に相互作用している可能性もあり、スタチンの添加時間を変えながら探索する必要がある。 前年度までに行ったDNAマイクロアレイとレトロウイルスを用いたGene trap法の結果から、細胞死誘導に細胞周期調節因子の関与が示唆されており、その詳細な解析を行った。Gene trap法でクローニングしたスタチン耐性細胞は、細胞周期調節因子が破壊されていた。そのcell cycleは野生株よりも遅くなり、スタチン存在下では耐性株が顕著にG0/G1 arrestを起こすことを明らかにした。以上のことより、スタチン耐性株は、G0/G1 arrestを起こすことでスタチン依存的な細胞死誘導を抑制することが示唆された。また、両細胞株のスタチン依存的なオートファジー誘導を調べた結果、顕著な差は見られなかったことから、オートファジー誘導とは異なる作用機序でおきていることが明らかとなった。 新規mTOR調節因子の同定には至らなかったが、本研究により、細胞周期調節因子がスタチン依存的な細胞死の抑制に重要な働きを持つことが明らかとなった。今後、スタチンによる副作用の抑制法開発への応用が期待される。
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