研究課題
若手研究(B)
本邦で特定疾患治療研究事業対象疾患(難病)に指定されている肺高血圧症は、肺血管の攣縮や肺血管壁の肥厚による血管内腔の狭小化、血栓形成による肺血管抵抗の上昇によって、持続的に肺動脈圧が上昇する致死性疾患である。これまでに細胞内カルシウムシグナル機構の異常など複数の肺高血圧発症因子が同定されているが、それらが複雑に関連しているため、未だに正確な発症メカニズムは解明されていない。本研究では、細胞外のカルシウム濃度を感知するカルシウム感受性受容体(CaSR)に着目し、肺高血圧症におけるその発現変化および機能変化を解析した。特発性肺動脈性高血圧症(IPAH)患者由来の肺動脈平滑筋細胞(PASMCs)では、外液カルシウム濃度を0 mMから2.2 mMに置換すると、顕著な細胞内カルシウム濃度([Ca2+]cyt)上昇が認められた。この応答はCaSR作用薬であるR568によって増大し、CaSR拮抗薬であるNPS2143によって抑制された。これらの反応は正常ヒトおよび慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者由来のPASMCsでは観察されなかった。CaSRのmRNAおよびタンパク質発現は、IPAH-PASMCsで増加していた。CaSRのsiRNAノックダウンによって、IPAH-PASMCsで観察される細胞外カルシウム誘発性[Ca2+]cyt上昇や異常な細胞増殖は抑制された。モノクロタリン誘発性肺高血圧症ラットのPASMCsにおいても、CaSRの発現増加や機能亢進が認められ、NPS2143の腹腔内投与は肺高血圧症の進行や右心肥大を改善した。以上より、CaSRの発現増加が、肺高血圧症における細胞内カルシウムシグナルの増強に関与していることが明らかになった。また、CaSRが肺高血圧症治療薬の創薬標的になる可能性を提示した。本研究による知見は、肺高血圧症の発症機構の解明や新規治療薬の開発に大きく貢献すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した本年度の実験計画に沿って、実験の大部分を順調に進めることができた。また、その研究成果を学術雑誌や学会で発表することができた。
本研究によって、カルシウム感受性受容体の発現増加と機能亢進が、肺高血圧の病態に関係することが明らかになった。さらに、カルシウム感受性受容体の発現増加の詳細な分子機構を明らかにしていく予定である。また、カルシウム感受性受容体を分子標的とした肺高血圧症治療薬の探索も進めていく予定である。
平成25年度は動物実験の比重が大きかったため、予想よりも消耗品費を抑えることができたため。平成26年度は、培養細胞を扱った実験を主に行う予定なので、培地や抗生剤、血清などを購入する予定である。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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