研究課題/領域番号 |
25860069
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
高鳥 悠記 同志社女子大学, 薬学部, 助教 (90411090)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 薬理学 / ニューロン / アルツハイマー病 / 神経保護作用 / ニコチン受容体 |
研究概要 |
本研究室においてこれまでに初代培養大脳皮質細胞においてアルツハイマー病治療薬として汎用されているドネペジルがグルタミン酸誘発神経細胞死に対して保護作用を示すことを明らかにしてきた。さらにドネペジルの神経保護作用にはPhosphatidylinositol 3-kinase (PI3K)-Akt経路が関与することを報告してきたが、その下流シグナルについては未だ不明な点が多い。そこでドネペジルの神経保護作用の詳細なメカニズムを明らかにするため、Aktの主要な基質であり、神経細胞死に重要な役割を果たすことが報告されているglycogen synthase kinase-3β (GSK-3β)に着目した。本研究では、ラット胎仔由来大脳皮質ニューロンを用いてドネペジルがGSK-3βの2つのアミノ酸残基のリン酸化に与える影響、さらにその下流のシグナルについて検討した。その結果、 培養大脳皮質細胞において、ドネペジル処置はGSK-3βの9位のセリン残基のリン酸化を亢進し、そのリン酸化はPI3Kの阻害薬をドネペジルと同時処置することにより抑制された。グルタミン酸処置により惹起されるGSK-3βの216位のチロシン残基のリン酸化はドネペジルを処置することで抑制された。GSK-3β阻害薬は濃度依存的にグルタミン酸誘発神経細胞死に対して保護作用を示した。Bcl-2の発現量はドネペジル処置により上昇した。一方、GSK-3β阻害薬処置では変化しなかった。β-cateninは、ドネペジルおよびGSK-3β阻害薬のいずれの処置においても発現が上昇した。以上の結果より、ドネペジルの神経保護作用機序の一部にPI3K - Akt経路を介したGSK-3βの活性抑制が関与すること、またGSK-3β活性抑制の下流シグナルとしてはBcl-2の発現上昇ではなく、β-cateninの発現上昇が関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画の内容に関してはほぼ順調に達成できたが、GSK-3により分解が制御されるβ-cateninの安定性の変化に関しては十分に検証を行うことができず、目標に到達しなかった。現在、アルツハイマー病治療薬およびGSK-3阻害剤を処置した細胞を用いて、β-cateninの発現変化を観察している。
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞ではAβ処置によりTauの過剰リン酸化が惹起されるので、Aβと同時にアルツハイマー病治療薬で処置 した神経細胞でTau過剰リン酸化が抑制されているか、リン酸化Tau特異的抗体を用いたWB法により検証する。Ta uリン酸化抑制の機序を明らかにするために、PI3K-Akt-GSK-3経路の分子に対する特異的アンタゴニスト(また はアゴニスト)をアルツハイマー病治療薬と同時に処置してTauのリン酸化をWB法で観察する。 GSK-3はアポトーシス実行因子Caspase-3を介して細胞死に関与するので、アルツハイマー病治療薬がグルタミン 酸誘発のCaspase-3切断を抑制しているか、またGSK-3がこの経路に関わるか明らかにするために、初代培養大脳 皮質細胞をアルツハイマー病治療薬、またはGSK-3阻害剤で処置してWB法でCaspase-3の切断を観察して検討する 。GSK-3はNMDA受容体のサブユニットNR1の細胞膜上の発現量を制御することで、グルタミン酸誘発の過剰なCa2+ の流入を抑制して神経経細胞死を抑制している。アルツハイマー病治療薬、GSK-3阻害剤で処置した初代培養細 胞において、NR1の発現量をWB法と免疫染色法、グルタミン酸誘発のCa2+の流入量をCa2+感受性蛍光色素(Fura- 2)を用いて観察する。 我々はこれまでにアルツハイマー病治療薬処置により発現(転写)が亢進し、神経保護に関わる遺伝子を同定している。これらの遺伝子の発現制御がPI3K-Akt-GSK-3経路の下流であるか、アルツハイマー病治療薬と阻害剤を 同時処置した細胞におけるRT-PCR法とWB法により検証し、遺伝子発現の制御が神経保護作用に関わるか検討する 。
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次年度の研究費の使用計画 |
GSK-3により分解が制御されるβ-cateninの安定性の変化の確認が不十分であった。そのため、次年度に繰り越した。 本年度は、アルツハイマー病治療薬によるTauリン酸化抑制の検討と機序の解析および、GSK-3の下流の神経保護作用機序の解析を行う。前年度に繰り越した分も含めて効果的に使用することにより、研究費を適正に使用して、成果を得る予定である。
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