アルツハイマー病の病理学的特徴である神経原線維変化は過剰にリン酸化されたtauが主要な構成要素である。Tauタンパクは微小管細胞骨格の安定性を制御しており、その過剰なリン酸化により微小管細胞骨格の安定性が失われることが神経細胞死の一因になっていると考えられている。本研究では、アルツハイマー病治療薬として汎用されているドネペジルの神経保護作用の詳細なメカニズムを明らかにするため、Aktの主要な基質であり、神経細胞死に重要な役割を果たすことが報告されている、glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)および、その下流因子候補のTauのリン酸化に注目して、ドネペジルのtauの過剰リン酸化への影響および細胞死への関与について検討した。胎生17-19 日齢ラット胎仔より大脳皮質を摘出・単離し、培養10-12日目の成熟した細胞を実験に用いた。細胞生存率の評価はLDH release assayおよびMTT assay により評価した。タンパクの発現変化はwestern blotting により検出した。Tauの脱リン酸化酵素の阻害剤であるokadaic acid処置により、処置時間依存的かつ濃度依存的な神経細胞死およびtauリン酸化の上昇が見られた。神経細胞死が抑制された条件下でドネペジルを24時間前処置したところ、部位特異的にtauリン酸化の抑制傾向が見られた。以上の結果より、ドネペジルの神経保護作用機序の一部に、PI3K-Akt経路を介したGSK-3βの活性抑制が関与すること、またGSK-3β活性抑制の下流シグナルとしては、部位特異的なtauリン酸化が関与することが示唆された。
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