本研究において、薬用植物スコパリアのジテルペン類(SDB)生合成経路の制御機構を解明することを目的としてcytochrome P450(P450)分子種に着目し、すでに単離されているエリシター誘導性のP450分子種の詳細な解析を行った。エリシター誘導性のP450候補遺伝子として単離したSdCYP5およびSdCYP6は、CYP71ファミリーに分類された。続いて、SdCYP5のアイソフォームの単離も行い、SdCYP7およびSdCYP8を得た。SdCYP5およびSdCYP8の遺伝子発現はスコパリア葉におけるSDB生合成活性と密接な関係を有していた。さらに、ジテルペン環化酵素群のクローニングを行ったところ、ent-kaurene synthase(SdKS)やent-kaurene oxidase (CYP701Aファミリーに属するP450)をコードする遺伝子(SdKO1)の単離にも成功した。次いで、SdKO1のアイソフォーム(SdKO2)も同時に取得した。得られたP450や環化酵素群を大腸菌で組み換えタンパク質を発現させるため、得られたクローンのORF部位を大腸菌発現ベクターに導入し、発現誘導を行ったところ、予想サイズの各組み換えタンパク質を得ることが出来た。今後は、触媒反応機構を詳細に解析していく予定である。 本研究で実施した生合成遺伝子のクローニングおよびエリシター添加による変動の解析は、エリシター制御機構の解明には必要不可欠であり、総合的な解析の基礎となる知見である。植物P450酵素の機能を化学物質を使って可逆的選択的に制御できれば、種や生育ステージ、期間や強度を選ばずに、生長分化やストレス応答、有用物質の生産等の制御を自在に行えるようになる。本研究は、その試みの一例であり、新たな創薬ターゲットとしての植物P450の可能性を提示するものである。
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