PPARgammaの活性化に重要なへリックス12とリン酸化部位 Ser245 の中央部にへリックス3が位置している。このへリックス3に着目しβシートと直接相互作用しているIle281がリガンドによる安定化に関する重要な役割を果たしていると考えた。計画に従いAlaへの変異実験として15N標識体の発現を行った。NMR実験の結果、本来リガンドの添加によるシフトが、数アミノ酸残基において認められないことを確認した。リガンドはへリックス3を取り囲むように安定化させ、これがβシート安定化に重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、へリックス3上のさらなる不安的化を試みる目的で、へリックス3上の塩橋が破たんした変異体の作成し、安定性を検討したところ、予想とは反対に塩橋はへリックス3を起点としタンパク質の不安定化を増大させていると考えられる。すなわちリガンド結合と解離の影響を大きくするために適度にへリックス3に揺らぎを与えていることが示唆された。以上の実験結果から、リガンドはまず不安定なへリックス3を安定化し、揺らぎが抑えられることでβシートと相互作用する確率を上げ、βシートが安定化するという機構が導き出された。これにより、βシート近傍のSer245も安定化され、リン酸化が阻害されたと考えられる。以上の実験は、今後どのようなPPARgammaのリガンドを設計すれば、Ser245のリン酸化を阻止することができかのヒントになると考えられ、PPARgammaを介したインスリン抵抗性改善薬の効率の良い設計の指標になると思われる。
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