研究課題/領域番号 |
25860091
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
田畑 英嗣 帝京大学, 薬学部, 助教 (80445634)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 軸性キラリティー / アトロプ異性 / アミド構造 / 不斉制御 |
研究概要 |
これまでの知見から、医薬品の基本母核として広く利用されているベンゾジアゼピン骨格を持つ誘導体について、ベンゼン環とアミド結合から成る軸不斉に基づく立体構造の解明と生物活性に対する軸不斉の影響などを明らかにしてきた。 本年度は、環内に窒素や酸素、硫黄のようなヘテロ元素を含有する構造について、軸不斉に基づく立体化学を明らかにすることを目的に研究を行った。ヘテロ元素を有する環状アミド構造は、医薬品リード化合物の基本骨格となっているものが多く、ヘテロ原子の導入に伴う軸性キラリティーへの影響を明らかにすることは、新しい医薬品候補化合物の創製につながるだけでなく、有機合成化学の観点からも多くの研究者にとって有益な情報提供ができると言える。そこで、同様に医薬品の骨格として重要であり、硫黄原子を持つベンゾチアゼピン類について検討した。 ベンゾチアゼピン類は、硫黄原子が酸化を受けてS-オキシド体となった場合、軸不斉に加えて、硫黄に基づく中心不斉を持つことになる。すなわち、2つの不斉を持つことになり、ジアステレオマーの存在が予想される。ベンゾチアゼピン誘導体に対して酸化反応を試みた結果、予想どおり軸不斉と中心不斉に基づくジアステレオマーが存在することが分かった。また、得られたジアステレオマーは約5:1の比で存在していることが確認され、HPLCでそれらを単離し、X線結晶構造解析により立体構造を明らかにした。また、それぞれのジアステレオマーは熱を加えることで異性化することが確認されたことから、異性化のメカニズムの解明を試みた。キラルカラムを用いて軸不斉異性体を単離し、詳細に検討した結果、異性化は硫黄の中心不斉の反転を伴わず、不斉軸のみが回転して起こるという興味深い知見を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、軸性キラリティーの存在が予想される生物活性化合物について、種々の誘導体を合成し、軸不斉に基づく立体化学の詳細な解明すること、ならびに軸不斉異性体の分離及び単離を行い、キラリティーの制御のための方法論を確立することを目的に研究に着手した。 これまでのベンゾジアゼピン類の軸不斉に基づく立体化学に関する知見を踏まえ、他のヘテロ原子として硫黄を持ち、かつ同様に医薬品の基本構造として広く利用されているベンゾチアゼピン類をターゲットとして、立体化学の解明を試みた。そして、ベンゾチアゼピン誘導体にもベンゼン環とアミド結合との結合軸から成る不斉(軸不斉)が存在していることを見出した。また、X線結晶解析による立体構造の解明や軸不斉異性体を分離および単離し、熱力学的安定性等の物理化学的性質を明らかにしている。これにより生物活性化合物として散見されるベンゾチアゼピン誘導体の軸不斉に基づく立体化学の解明を達成できたと考えている。さらに、硫黄を酸化してS-オキシド体とすることで不斉中心が生まれ、軸不斉と不斉中心の2つの不斉に基づく複雑な立体化学を検討し、反応のメカニズムや異性体間の安定性の違いなどの軸不斉と中心不斉の関係性に関する興味深い知見を得ることができた。この結果は、キラリティーを制御するための方法の開発や軸性キラリティーを活かした新規生物活性化合物の創製に応用できると言える。当初の計画に基づいて研究を実施し、次年度の研究に繋がるこれらの知見を得ることができたことから、順調に進行していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた立体構造及び物理化学的性質等の知見をもとに、硫黄の不斉中心が与える生物活性への影響を検討する。ベンゾジアゼピン類と同様にバソプレシン受容体を標的とした阻害活性を調べる。バソプレシン受容体にはサブタイプが存在するが、これらのサブタイプ選択性が医薬品候補化合物開発の鍵となる。軸不斉と硫黄の中心不斉に基づく構造によるサブタイプ選択性の向上を目標として、新たな動脈硬化症治療薬候補化合物を創出したい。 続いて、他のヘテロ原子を持つ類縁体についても、同様に立体構造の検討を行う。酸素原子を含むベンズオキサゼピン骨格もまたバソプレシン受容体拮抗作用やGnRH受容体拮抗作用を持つ医薬品の基本骨格として重要である。酸素原子は硫黄と同族原子であるが、硫黄原子と比べて電子的または立体的にも異なることから、立体化学を調べる必要性は非常に高い。種々のベンズオキサゼピン誘導体を合成し、NMR、HPLCおよびX線結晶構造解析等を用いて軸不斉を明らかにするとともに、立体構造や安定性などをベンゾチアゼピン誘導体と比較検討する。 さらに、軸不斉の効率的な制御法の確立についても検討する。一般的に軸不斉は中心不斉に比較して安定性が低いことが難点のように考えられがちである。しかし、逆に軸不斉の柔軟性を利用すれば、新しいタイプの不斉反応を開発することができる。前年度の知見から、中心不斉によって軸不斉の立体構造が制御可能であることが示唆された。つまり、不斉炭素のような剛直な中心不斉を導入することで、軸不斉が影響され、一方の立体構造に偏らせることができると予想される。すなわち、立体的な要因あるいは電子的な要因を踏まえて不斉中心を導入することで、中心不斉と軸不斉の連動性を活かして一挙に複数の不斉の構築を目指す。本法はこれまで例がなく、大変効率が良いと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、種々の化合物について軸性キラリティーを明らかにするため、軸不斉異性体を分離、単離し、解析する必要がある。特に、軸不斉異性体の単離やキラリティーの解明には高速液体クロマトグラフィーや円二色性スペクトルを用いた多くの解析が求められる。当初、当研究室の設備ならびに所有するキラルカラムなどの備品では、目的とする化合物の軸不斉異性体の分離が可能であるものの、非常に困難であることが予想された。そのため、多くの試薬および器具などの消耗品を購入する予定であった。しかし、幸いにも多種にわたるキラルカラムの購入が可能になり、かつ大型機器の導入に伴う設備の充実化が図られたため、従来に比べて効率的な解析が可能となった。したがって、当初購入を予定していた試薬や消耗品類の節減に成功したことから、未使用額が生じた。 次年度では、さらに多くの化合物ついて検討が必要となることから、それらの合成に係る試薬および器具類を購入しなければならない、また、軸不斉異性体の分離、単離の効率性が向上したことで、活性試験に要するサンプルの確保が容易になった。このため、様々な活性評価試験への使用が可能となると考えられる。したがって、未使用額については、次年度に遂行する予定である新規誘導体の合成ならびに新規規生物活性化合物の活性の検討に必要な試薬類の購入に充てたいと考えている。
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