研究課題
これまでに、バソプレシン受容体拮抗薬の基本構造であるベンゾアゼピン類の軸不斉に着目して研究を進めてきた。そして、ベンゾジアゼピン骨格について、ベンゼン環とアミド結合から成る軸不斉に基づく立体化学、ならびに活性発現と軸不斉の関連性などを明らかにしてきた。そこで、本研究ではヘテロ原子を含むベンゾアゼピン類の立体化学に着目した。ヘテロ元素を有する環状アミド構造は、医薬品リード化合物の基本骨格となっているものが多く、これらに隠された軸性キラリティーの存在を表出させることは、今後の医薬品開発に重要な役割を持つと言える。特に本年度は硫黄を含む骨格を取り上げ、研究に着手した。硫黄を持つベンゾチアゼピン類では、窒素や炭素を持つベンゾアゼピン類に比べて、軸のねじれが大きく、安定性も高いことがわかった。軸不斉化合物において、鏡像異性体を分離、単離することは安定性に点から難しいことが多い。しかし、この結果のように、原子1つを変えることで鏡像異性体の単離が容易になることが明らかとなった。また、硫黄は酸化することで不斉中心を持つことになる。そこで、S-オキシド体を合成し、軸不斉と硫黄の中心不斉の関連性を調べた。その結果、軸不斉が中心不斉を制御すること、あるいは中心不斉が軸不斉を制御することがわかった。さらに、環状化合物では、いす型と舟形、アキシアルとエクアトリアルなどの立体配置も考慮しなければならず複雑であるが、立体障害を巧みに入れることで立体構造を制御し、様々な異性体を合成することに成功した。これらをもとに、バソプレシン受容体拮抗作用を持つ種々の誘導体を合成し、生物活性を調べた結果、活性発現に寄与する立体構造を解明した。本研究の結果は、有機合成化学の観点から重要であるだけでなく、医薬品の製造に携わる多くの研究者にとっても意義があると考えている。
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