TP53遺伝子で見られるナンセンス変異の中で、コドン196および213の変異は全体の12%、15%を占める。これらのナンセンス変異を標的としたリードスルー抗がん剤を開発できれば、比較的多くの患者を対象とし、既存の抗がん剤の作用メカニズムとは異なる新規抗がん剤を提供できるようになる。本研究では、ナンセンス変異を読み飛ばす活性をもつ合成ネガマイシン誘導体群(22種)から、p53遺伝子のナンセンス変異に最も強力な細胞増殖抑制活性を発揮するリードスルー化合物TCP169を見出した。 TCP-169は、p53 nullのヒト肺腺癌由来Calu-6細胞に対して有意な細胞増殖抑制活性を示した。また、ウエスタンブロットにより、Calu-6細胞におけるp53のタンパク質の再発現が確認された。更に、p53タンパク質量を負に制御するMDM2の阻害剤ナトリン-3やストレス応答に伴うp53タンパク質の核内移行を促進させる小胞輸送阻害剤ブレフェルジンAの共投与により細胞増殖抑制活性が有意に増強された。 一方で、p53応答性レポータープラスミドを用いたレポーターアッセイ、カスパーゼ-3活性化の評価、アポトーシス阻害剤の共投与による再発現p53タンパク質の機能解析を実施したが、いずれの評価系においてもp53再発現活性以外に、TCP-169が有する細胞増殖抑制機構の存在を示唆する結果を得た。したがって、TCP-169が有する細胞増殖抑制活性に関与する詳細な分子機構の解明が今後期待される。
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