平成26年度は、A型インフルエンザウイルスに対するパントロピックな特殊環状ペプチドの開発を目指し、Group2に属するH3亜型のHA (HA FL)を基にHA stemコンストラクトを構築した。このコンストラクトはA型インフルエンザの現存する16亜型のHA全てに共通するstem領域のみから成り、抗原性が高く多様なglobular head領域を含まないため、より効率的にstemに結合する特殊環状ペプチドをスクリーニングできると期待された。HA stemの抗原性および立体構造を確認するため、pCAGGSベクターに搭載し、マウス大腿筋へのDNA vaccineを実施し、抗体誘導をELISAで検討したところ、血清中にH3亜型HAに結合する抗体に加え、H5亜型HAに交叉反応を示す抗体も検出され、亜型・groupを超えた抗体誘導のポテンシャルが示唆された。一方、この免疫マウスに実際にH3亜型ウイルスを致死量で感染したところ全く防御できず、感染防御に有効な中和抗体は誘導されない(HA stemはintactなHAと同様の立体構造をとっていない可能性)ことが明らかとなった。そこで、目標をGroup2の亜型ウイルスに対する抗ウイルス活性を示す特殊環状ペプチドの取得に切り替え、HA stemに替えてHA FLでのスクリーニングを進めている。また、前年度に取得に成功したGroup1の亜型ウイルスに抗ウイルス活性を示す特殊環状ペプチドについてもさらなる解析を進め、抗ウイルス活性の新たな作用機序として感染細胞内のウイルス抗原(HA)の分解・排除機構を明らかにし、さらに霊長類モデルとしてH5N1のヒト分離株(Vietnam/UT3040株)の感染カニクイザルを用いた投薬実験を実施し、感染2日目からの投与でも治療効果を示すことを確認することができた。現状ではvehicleへの溶解性の低さといった課題があるため、今後は薬剤としての可能性を向上させるため、溶解性の亢進に向けた改良(環状ペプチドの糖鎖修飾など)を検討していく。
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