研究課題/領域番号 |
25860100
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
佐々木 由香 昭和大学, 薬学部, ポストドクター (40635108)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プロスタグランジン / がん / PGIS / mPGES-1 |
研究概要 |
平成25年度には、化学発がん剤であるアゾキシメタンを用いて野生型マウス、mPGES-1欠損マウス、PGIS欠損マウス、mPGES-1/PGIS両欠損マウスにおける大腸化学発がんを評価した。その結果、これまでに報告している通り、mPGES-1欠損マウスでは野生型マウスと比較して大腸ポリープの発生が抑制されており、組織標本のHE染色像からも発がんが抑制されることが認められた。これに対し、PGIS欠損マウスでは発がんの促進が認められ、mPGES-1/PGIS両欠損マウスでは野生型マウスよりも発がんは抑制されたものの、mPGES-1欠損マウスよりは発がんが促進されていた。この結果より、mPGES-1の欠損はアゾキシメタンによる発がんを抑制するのに対し、反対にPGISの欠損が発がんを促進することが示唆された。このときのPGISの発現を免疫組織染色によって検討したところ、大腸組織の血管に発現が認められた。また、PGIS欠損マウスのポリープではPGI2代謝物の6-keto PGF1aは検出されず、mPGES-1/PGIS両欠損マウスでは6-keto PGF1aの欠損とPGD2の増加が認められ、シャンティングが生じていた。また、アゾキシメタン投与から11週後に大腸を摘出しマイクロアレイ解析を行い発現上昇が認められた遺伝子のmRNA発現を定量的PCRにて解析した。その結果、PGIS欠損マウスでは野生型マウスと比較して血管新生を担い、がんとの関連も報告されているAngiogeninの発現上昇が認められたことから、PGISの欠損はAngiogeninの発現上昇を介して発がんを促進した可能性も考えられた。 さらに、マウス大腸がん細胞株Colon-26および肺がん細胞株LLCにPGI2アナログのカルバサイクリンを添加して培養したところ、いずれの細胞株においても細胞増殖の抑制が認められた。これらの結果より、in vivo、in vitroともにPGI2が、がんに対し抑制的に作用する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に計画していたアゾキシメタンによる化学発がんモデルの解析をmPGES-1欠損マウス、PGIS欠損マウス、mPGES-1/PGIS両欠損マウスを用いて行い、mPGES-1とPGISがアゾキシメタンによる発がんに対してそれぞれ促進と抑制の反対の役割を担うことが明らかとなった。さらに、平成26年度に予定していたマイクロアレイ解析も行い、PGISの欠損によって発がん初期に変動する遺伝子の網羅的解析を行った。一方、他に計画していた発がんモデルについては現在解析中である。また、平成25年度の計画していたとおり、がん細胞増殖へのPGI2の作用を検討したところ、大腸がん細胞および肺がん細胞へのPGI2アナログの添加によってがん細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。これらの状況を踏まえ、おおむね計画通りに研究は進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
アゾキシメタンによる発がんではmPGES-1欠損マウスは発がんが抑制され、PGIS欠損マウスでは促進されたが、他の発がんモデルでも同様であるか、あるいは、どのように異なるのかPG合成や発がんに関わる遺伝子発現の解析によって検討する。さらに、PGISの欠損によって発がんが促進されたことについて、血管新生関連因子の発現増加との関連や、どの受容体を介しているのかといった機構についてマイクロアレイの結果をもとに遺伝子発現を解析する。 また、マウスの大腸がん組織において、PGISは血管に発現していたこと、in vitroにおいて大腸がん細胞の増殖がPGI2アナログによって抑制されたことから、がん細胞の周辺組織に発現するPGISによって産生されたPGI2ががんの増殖を抑制することが考えられる。そこで、移植腫瘍に対する宿主側のPGISの役割を検討するため、PGIS欠損マウスにがん細胞を移植し、増殖能を解析する。また、血管におけるPGISとがん細胞の相互作用について検討するために、がん細胞と血管内皮細胞の共培養を行い、それぞれの細胞の相互作用へのPGISの役割を明らかとする。
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