平成27年度は,基礎研究と臨床研究を並行して実施し,以下の成果が得られた. 1)基礎研究 オキサリプラチン(L-OHP) 5 mg/kgを1分間かけて投与した際に生じる血管痛の大きさをpositive controlとして,プロカイン,HC030031(TRPA1拮抗薬)による血管痛の抑制効果を評価した.プロカイン0.4 mgの前投与により,血管痛は有意に抑制された.また,HC030031は30 mg/kg群,100 mg/kg群のいずれにおいても血管痛は抑制されなかった.これらの結果から,血管痛の発現にTRPA1は関与していないこと,電位依存型Naイオンチャネルが関与することが示唆された. 2)臨床研究 石川県内の5施設で,L-OHPを末梢静脈から投与された大腸がん患者を対象として,血管痛の発現と関連のある臨床的要因を解析した.対象症例数は190例であり,そのうちの65%に血管痛が発現していた.現在,臨床で実施されているカテーテル挿入部位付近の加温,L-OHP希釈液へのデキサメタゾンの添加,希釈液の増量を行っても,血管痛を予防できない可能性が示された.血管痛と関連のある独立した危険因子は,L-OHP標準投与量(減量なし),臨床病期Ⅰ~Ⅲ,BMI<22であった.この危険因子を2つ以上保有している患者では,危険因子を保有していない患者と比較して,有意に血管痛の発現率が高くなった.臨床研究の結果より,L-OHPの単位時間当たりの投与量が大きいほど血管痛の発現率が高くなることが明らかとなり,この結果は26年度に動物実験から得られた結果と一致した.
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