研究課題/領域番号 |
25860116
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 徳幸 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 招へい教員 (00649387)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 核酸医薬品 / アンチセンス / オフターゲット効果 |
研究概要 |
本研究の目的は、siRNAやアンチセンスなどに代表される核酸医薬品に特有の「オフターゲット効果」に起因した副作用の発現に関して、非臨床の段階で予測するための評価手法を確立することである。オフターゲット効果は、mRNAの配列に依存して起こる現象であるため、「核酸医薬品の標的配列と相同性を有する遺伝子」をオフターゲット候補遺伝子と捉えることができる。しかし、siRNAに関してはオフターゲット効果が起こる条件が明らかにされているが、近年開発されているアンチセンスにおけるオフターゲット効果についてはこれまで全く基盤研究が進んでいない。そこで本研究では、アンチセンス医薬品によって引き起こされるオフターゲット効果に関する基盤研究を実施する。 オフターゲット効果を考えるうえで、核酸医薬品の塩基長は重要なファクターとなる。塩基長が短くなると、配列の特異性は小さくなるので、標的配列以外で完全相補あるいはミスマッチを要するオフターゲット候補遺伝子の数は増加すると考えられる。一方で、塩基長が長くなると配列の特異性は大きくなるため、反対にオフターゲット候補遺伝子の数は減少すると推察される。例えば、2013年に米国で承認されたミポミルセンの場合、塩基長は20 merであり、標的遺伝子以外で完全相補・1塩基ミスマッチで相補する遺伝子は存在せず、2塩基ミスマッチで相補する遺伝子でも4つであることがわかっている。このように、核酸医薬品になり得る固有の配列については、オフターゲット候補遺伝子数が解析されている。しかし、一般的に各塩基長の核酸医薬品でどの程度完全相補する配列、あるいは相補する類似配列(ミスマッチを持つ配列)があるのかわかっていない。そこで本年度は、数理計算およびin silico解析により、核酸医薬品のオフターゲット候補遺伝子の数を算出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
オフターゲット候補遺伝子が確率的にヒトmRNAにいくつ存在するかを推定するために、数理学的な解析を行った。理論値の算出にあたり、①ヒトmRNAを「A, T, G, C」がランダムに連結した配列と見なす、②ヒトゲノムを30億の塩基対から構成されている、③ヒトゲノムの配列の中でmRNAをコードする領域の割合を3%とする、の3つの条件のもと、n塩基からなる核酸医薬品とm塩基が相補しない(m塩基のミスマッチがある)配列がヒトmRNAに存在する数を算出した。その結果、核酸医薬品の配列がmRNAと完全相補する数は、13-14塩基長で0.3-1.4個であり、この程度の長さから数カ所、核酸医薬品に完全相補するmRNAが出てくると考えられた。一方で、同じ塩基長の核酸医薬品でもミスマッチを許容すると、13-14塩基長では1塩基ミスマッチのmRNAは数個から数十個存在することとなり、ミスマッチが増えると数百個になることがわかった。 次に、オフターゲット候補遺伝子が実際にいくつあるか確かめるため、試験的に核酸医薬品の標的配列と相同性を有するmRNAを検索するプログラムを作成し、in silico解析を実施した。既知のハウスキーピング遺伝子に対する仮想のアンチセンスを数千設定し、各配列のオフターゲット候補遺伝子の実測値を統計的に解析した。その結果、14塩基長のアンチセンスの場合、0ミスマッチ、1ミスマッチ、2ミスマッチのmRNAの数はそれぞれ2個、30個、400個程度であり、数理計算で算出した理論値と比較すると2-5倍程度の値となった。すなわち、数理学的解析から得られたオフターゲット候補遺伝子の理論値は、in silico解析により得られた実測値よりもやや小さいが、数のオーダーは保持されていたため、オフターゲット候補遺伝子の数を見積もるうえで有用であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度試験的に作成した「核酸医薬品の標的配列と相同性を有するmRNA」を検索するプログラムは、細胞・個体レベルでのオフターゲット効果の検証において有用なツールになると考えられる。アンチセンスにおけるオフターゲット効果の検証にあたり、これまで基盤情報は皆無であることから、最初のトライアルとしてヒト組織や初代ヒト細胞を対象とするのは難しい。そこで、本研究ではまず試験的に株化細胞を用いて、オフターゲット効果に関する基盤情報を収集する。具体的には、内在遺伝子の発現に影響を与えないようにオンターゲット遺伝子として外来遺伝子のGFP(Green Fluorescent Protein)を用いる。本プログラムでGFPに対する考えられる全ての仮想アンチセンスを設計し、ヒトmRNAに対するオフターゲット候補遺伝子数を多く持つアンチセンス配列を検索・設計し、且つGFPを顕著に抑制するアンチセンス配列を選別する。選別したアンチセンスをGFP発現細胞に作用させた際のオフターゲット効果をマイクロアレイ解析、および定量PCR解析により検証する。以上の検討によって、本研究の目的である、①オフターゲット効果の発現を細胞レベルと個体レベルの相関性を検証することで、オフターゲット評価に適した培養細胞を提唱する。②非臨床試験での種差の問題を解決するために、ヒト化肝臓マウスを用いた評価系の有用性を検証する。以上の検証に資する基礎情報を収集する。本研究の成果は、国内外において研究開発・承認審査のガイドラインが存在していない核酸医薬品について、「オフターゲット効果」に関するガイドライン策定の土台となりうる極めて重要性の高い知見となり、核酸医薬品の開発環境整備の一助となることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末における学会参加の予算を算出するにあたり、平成25年度の予算内で支出できるよう学会参加に必要な経費を少し多めに見積もっていた結果、差額が生じたため。 平成26年度の研究に必要な試薬の購入に充てる。
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