研究課題
若手研究(B)
ヒト血清アルブミン(HSA)は、ビリルビンなどの内因性リガンドや酸性薬物などの外因性リガンドを結合・運搬するタンパク質として知られている。中でも、循環血中における一酸化窒素(NO)の運搬タンパク質としても機能していることは、NOを薬物(Drug)として考えた際、Drug Delivery Systemという点から大変興味深い。NOは、血管内皮由来拡張因子として発見されて以降、がんや糖尿病、動脈硬化、高脂血症など、多くの疾患で関与しており、NOは標的臓器次第で、どのような治療薬にもなりうる可能性を秘めている。ここでは、NOをHSAに結合させた様々なSNO-HSAアナログを用いた癌疾患への検討結果を報告する。癌の領域では、Enhanced permeability and retention (EPR)効果を基盤とした高分子抗癌剤の開発が活発に行われている。一方、NOはEPR効果を増強することから、併用による高分子抗癌剤の腫瘍組織選択性の向上が期待されている。そこで我々は、NOを付加したSNO-HSA Dimerを作製して、EPR増強剤としての有用性を評価した。担癌マウスを用いて、EPR効果増強におけるSNO-HSA Dimerの影響を検討したところ、EPR効果の指標であるエバンスブルーの蓄積が認められた。また、SNO-HSA Dimerと高分子抗がん剤であるドキシルやアブラキサンとの併用による癌治療を行ったところ、SNO-HSA Dimer併用群において有意に高い抗腫瘍作用が認められた。その際、高分子抗癌剤の移行性も有意に増大していた。これらの結果から、SNO-HSAアナログは、NOの活性を臓器選択的に作用させることで、幅広い領域における治療薬や併用薬としての有用性が期待される。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進展していると判断した理由に関して、①計画書記載の研究計画を80%程度は達成していることからそのように判断した。残りの20%に関しては、担癌マウスモデルの系において、多種多様な癌細胞種での検討を行うため、様々な細胞を用いて、これまでの報告に従い担癌を試みたものの、癌細胞の生着率の悪さが原因で、実験に使用できる担癌マウスの数の確保に時間を要したことで、当初の計画より、若干の遅れが見られることに起因している。すでに解決のための手段を講じていることから、今後に影響を及ぼすほどのものではないと考えている。
今後は、当初の予定通り、SNO-HSA Dimerのin vivo 抗腫瘍活性評価ならびにEPR増強活性評価を中心に検討を行う。よって、研究計画の変更等は、ほとんど行わない予定である。
予定していた動物実験に関して、担癌効率が悪く、予定よりも実験の進捗が悪くなったことから、次年度への持ち越しとなったため。前年度に使用すべき分が本年度の使用計画に入ることになったため、特に過剰に使用すべき事由が生じた訳ではないことから、特に改めて使用計画を変更すべきことはないと考えられる。
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PLoS One.
巻: 9 ページ: e85216
doi: 10.1371/journal.pone.0085216.
Biomed Res Int.
巻: 2013 ページ: 353892
doi: 10.1155/2013/353892.
http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/Labs/Yakuzai/