ヒトにおける薬物in vivo代謝を予測するには、薬物代謝酵素の活性などの肝細胞機能を長期間保持した肝細胞培養系が必要である。しかし、生体外から分離された肝細胞の薬物代謝酵素は、分離数日後にほぼ消失する。本研究では、凍結ヒト肝細胞から増殖能を有するヒト肝前駆細胞を分離し、血管内皮細胞との共培養などによりヒト肝複合組織体を構築し、薬物代謝評価に有用な培養系を作製することを目的とした。 凍結ヒト細胞を遠心分離し、ヒアルロン酸をコートした培養皿に播種して、ウシ血清やEGF、ニコチンアミド、マウス線維芽細胞等の存在下で培養し、増殖能を有する肝細胞を分離培養した。3ドナー由来の肝細胞を分離し、それぞれ約10回程度の継代が可能であることを確認した。また、肝細胞特異的タンパク質α1-アンチトリプシン、アルブミン、肝前駆細胞マーカーであるCD44の発現をELISAと免疫染色法で確認した。肝前駆細胞は、ヒト血清を加えると増殖速度が高まったが、凍結ヒト血清では変化がなかった。 得られたヒト肝前駆細胞について、ゲル内での培養系を作製した。肝前駆細胞の上にマトリゲルを重層した培養系では、通常の培養系と同程度のCYP3A4活性を示した。マトリゲル上で肝前駆細胞を培養すると、細胞はスフェロイドを形成し、通常の培養系と比較してアルブミン分泌量の上昇がみられた。マトリゲル上で肝前駆細胞と内皮細胞を混合培養すると、スフェロイドを形成したが、肝前駆細胞単独培養と比較してCYP3A4の活性は変化しなかった。セルカルチャーインサートを用いた共培養では、肝前駆細胞単独培養と比較してCYP3A4の活性が上昇した。
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