研究実績の概要 |
本研究では、ラットに5-FUを連続経口投与することで抗癌剤誘発性の消化管障害モデルを作出した。具体的には、5-FU (30 mg/kg)を5日間経口投与した結果、ラットの食事量、体重は有意に低下し、さらに、投与5日目の小腸組織から作成した小腸スライス切片では、絨毛の脱落、絨毛の委縮、腺窩細胞の減少が確認された。すなわち、5-FU投与により消化管吸収に寄与する小腸上皮は著しく障害を受けていた。 次に、このモデルラットにおける併用薬の体内動態について、直接トロンビン阻害剤ダビガトランをプローブ基質として評価を行った。さらにその輸送に寄与する薬物輸送担体p糖蛋白質の小腸における発現量の変動についても併せて検討を行った。 5-FUを5日間連続投与することで作出した当該モデルラットにダビガトランエテキシラートを経口投与した結果、コントロール群と比べ、5-FU投与群においては、活性代謝物ダビガトランのAUC, Cmaxはそれぞれ1/3 程度に有意に減少しており、その際のバイオアベイラビリティは38%に有意に低下していた。さらに、活性化部分トロンボプラスチン時間の変動を指標としたダビガトランの抗凝固作用(APTT比)は、コントロール群にくらべ(1.59)、5-FU投与群において低下(1.18)しており、ダビガトランの薬理作用は減弱していた。また、このモデルラットにおけるp糖蛋白質の発現は低下していた。よって、この体内動態の変動ならびに薬理作用の減弱は、おそらく消化管障害による吸収に寄与する小腸上皮粘膜表面積の減少が関与する可能性が示唆された。
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