本研究では、細胞間隙経路および細胞内経路を介する薬物の膜透過に対して、20種類以上の医薬品添加剤の影響を検討した。 細胞内経路透過基質であるbeta-naphtholの膜透過は、多くの医薬品添加剤共存下において、変化が認められた。さらに、膜透過性を増加させるもの、減少させるものと、両パターンの医薬品添加剤の存在が明らかとなった。 医薬品添加剤の共存によるbeta-naphtholの膜透過の変化機構の解明のために、その膜透過に強く影響を及ぼしたステアリン酸マグネシウムをはじめとした10種類の医薬品添加剤において、細胞内経路の膜透過の障壁の一つと考えられているMucinへの影響を、小腸におけるMucinの主要分子であるMUC3の発現量の変化から検討を行った。その結果、医薬品添加剤による膜透過性の変化とMUC3の発現量への影響との相関性を得ることができたものは比較的少なかったが、医薬品添加剤とMUC1およびムチンに関する研究報告が存在するため、今回発現量に影響が認められなかった医薬品添加剤に関しても、MUC1および他の膜タンパク質の発現量への影響に関する検討を、今後行っていく必要があると考えられる。さらに発現量への影響に空腸部・回腸部による部位差が存在し、医薬品添加剤の濃度によっても挙動は異なることが示された。 本研究において、医薬品添加物は消化管粘膜近傍に影響を及ぼしていることが示唆された。さらにその影響は医薬品添加剤の特定の濃度や小腸の各部位にて認められた。本研究では、影響の作用点として膜タンパク質であるMUCに着目したが、有意な影響は認められなかった。したがって、今後、基質薬物の物性の考慮や他の膜タンパク質の検討を行っていく必要がある。
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