SV2Aの遺伝子多型の発現頻度およびそれが気質・性格に影響するかどうか検討を行った。健常者を対象としたSV2Aの遺伝子多型の発現頻度は、過去の報告とほぼ同程度であった。さらに採血時に気質性格検査(TCI)、およびベック抑うつ評価尺度(BDI)により評価したところ、野生型と比べ、変異型をホモおよびヘテロにて有するとTCIにおいて損害回避が有意に低く、自己志向が有意に高く、BDIが有意に低かった。そこで、SV2Aの不安や抑うつに対する影響について、SV2A阻害薬であるレベチラセタムをマウスに投与して行動薬理学的評価を行った。レベチラセタムの高用量投与により、高架式十字迷路およびオープンフィールド試験において不安様行動が惹起されたが、新奇性抑制摂食テストおよび強制水泳試験においてうつ様行動は認められなかった。さらに、妊娠マウスにバルプロ酸ナトリウムを投与し、その出生マウスを自閉症モデル動物として評価したところ、社会性行動試験における社会性低下および新奇物体認知試験における物体認知記憶障害が認められた。不安様行動が惹起されない低用量のレベチラセタムを自閉症モデル動物に投与するとこれら行動障害は有意に改善された。さらに自閉症モデル動物の前頭皮質において、グルタミン酸神経伝達に関わるタンパク質発現が有意に増加しており、それに伴った細胞内シグナル伝達の亢進が認められた。一方、その細胞内シグナル伝達の亢進は低用量レベチラセタムの投与により抑制された。以上の結果より、SV2Aは不安に関与するが、レベチラセタムによるグルタミン酸神経系の機能調節は自閉症の治療への応用が期待される。
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