【目的】経口投与製剤の開発において、ヒトにおける消化管吸収性を前臨床試験の段階で精度よく予測することは開発の効率化を図る上で極めて重要である。 本研究は消化管各部位に存在する水分中の種々成分濃度の情報を基に小腸上部および下部の人工腸液を開発し、消化管各部位での薬物溶解性の部位差を考慮した新しい消化管吸収性予測法を構築することである。 【方法】消化管内の絶食時の胆汁酸およびリン脂質濃度を基に、小腸上部(FaSSIFupper)および小腸下部(FaSSIFlower)の人工腸液を作製した。これらの人工腸液を用い、BCS class IIに分類されるalbendazole(AZ)の膜透過性および飽和溶解度を評価し、Maximum Absorbable Dose (MAD)の式を利用し、消化管各部位の吸収率(Fa)を予測した。また、人工腸液に可溶化剤を加えることにより、可溶化剤による薬物の吸収改善効果の予測も試みた。 【結果・考察】消化管各部位の人工腸液を用いて予測したAZ経口投与後のFa値は、in vivo Faと極めて近い値を示した。また、FaSSIFupperを利用して得られたAZ膜透過性および飽和溶解度のみを用いてFaを予測したところ、その値はin vivoにおけるFa値の2/3程度であった。また、可溶化剤による吸収性改善効果も各部位の人工腸液を利用することにより、予測可能であった。 以上、小腸上部および下部の人工腸液を利用して、AZの膜透過性および溶解度の部位差を評価することにより、消化管吸収率(Fa)を精度良く予測することが可能であり、その予測精度は小腸上部の人工腸液のみを利用した場合より高くなった。本研究は簡単なin vitro実験でin vivoでの薬物消化管内溶解性・吸収性を予測するため、無駄な臨床試験の回避、開発期間の短縮さらには医療費の削減に貢献できると考えられ、優れた新薬の開発に大きなインパクトを与えると期待される。
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