研究概要 |
閉経後女性に多い特発性手根管症候群は、最も頻度の高い絞扼性神経障害とされ、QOLを著しく障害する。本研究は、手根管症候群に認める結合組織の過剰な線維化が、ホルモンバランスの変化によって生じる局所の間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell, MSC)の機能異常に起因する、という全く新しいコンセプトで実施する。目的は、手根管局所のMSCの細胞形質を解析し、エストロゲンとの関連性を明らかにすることで、本疾患の病態解明および新規治療法開発に繋げることとする。平成25年度においては、手根管症候群患者の局所滑膜下結合組織及び血液サンプルの採取として、特発性手根管症候群と診断され、札幌医科大学付属病院にて外科的手術を必要とする患者6名(疾患群)から、局所滑膜下結合組織を採取した(糖尿病合併3名を含む)。採取した組織は、コラゲナーゼ処置後にpassege 5まで 培養し、MSC表面マーカー(陽性CD10, CD13, CD105, CD166, CD49a, CD90, CD44, CD147, CD73; 陰性, CD14, CD45, CD34, CD117, CD62e, CD20, CD113, HLA-DR, CD68, CD31, ALP)を用いてFACS解析を実施した。また、採取組織は同時に炎症性・線維性変化の形態学的解析、線維芽細胞マーカー、炎症性サイトカイン/ケモカイン、細胞外マトリックス、増殖因子およびエストロゲン, エストロゲンレセプター(ER-α, ER-β)のタンパク発現および遺伝子発現の解析中である。また、当該分野における情報交換及び研究発表目的にて国内・国際学会に参加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度においては、研究計画に基づき手根管症候群の患者で外科的治療を必要とする患者6名から滑膜下結合組織を採取し、コラゲナーゼ処置後に細胞培養し、FACSを用いて局所の間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell, MSC)の解析を行った。また同時に、採取組織に対する炎症性・線維性変化の形態学的解析、線維芽細胞マーカー(α-smooth muscle actin、vimentin、S100A4)、炎症性サイトカイン/ケモカイン(Tumor Necrosis Factor-α:TNF-α、IL-1、IL-6、Interferon(INF)-γ、IL-18、IL-8、PGE2)、細胞外マトリックス(collagen I、III、VI、matrix metalloproteinase:MMP-2およびMMP-9、tissue inhibitor of metalloproteinase:TIMP)、増殖因子(TGFβ1、connective tissue growth factor:CTGF, vascular endothelial growth factor:VEGF)およびエストロゲン, エストロゲンレセプター(ER-α, ER-β)のタンパク発現および遺伝子発現の解析によって、手根管症候群における滑膜下結合組織線維化の病因解明及びMSCの機能異常との関連性を解明中である。3年間で患者群・対照群それぞれ16名の組織採取を予定しており、患者群の組織解析は順調であるが、対照群のサンプル回収が困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に継続して、札幌医科大学付属病院にて外科的手術を必要とする患者10名(疾患群)、または手根管症候群の既往がなく手関節外傷などにより外科的手術を必要とする患者10名(対照群)を対象に組織(滑膜下結合組織)採取、血清ホルモン値解析のための血液採取を実施する。採取した組織は、炎症性・線維性変化の形態学的解析、線維芽細胞マーカー、炎症性サイトカイン/ケモカイン、細胞外マトリックス、増殖因子およびエストロゲン, エストロゲンレセプター(ER-α, ER-β)のタンパク発現および遺伝子発現を解析する。採取した血液は外部検査機関に委託して、血清中の性ホルモン値(エストロゲン、卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、男性ホルモン)を測定する。また、採取組織から単離培養した間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell, MSC)の増殖能を疾患群と対照群で比較検討する。単離培養したMSCはさらに脂肪分化・石灰化能、免疫制御能、エストロゲンレセプター発現量をin vitroで解析し、疾患群と対照群で比較する。また、より詳細にエストロゲン欠乏に対する局所滑膜MSCの機能を明らかにする目的で、マウス ovariectomy(OVX)モデルおよびコントロールの滑膜を採取し、コラゲナーゼ処置後に局所滑膜におけるMSCの脂肪分化・石灰化能、免疫制御能、エストロゲンレセプター発現量をin vitroで解析し、OVXモデルとコントロール群で比較検討を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、研究計画に基づき手根管症候群の患者で外科的治療を必要とする患者6名から滑膜下結合組織を採取し細胞培養し、FACSを用いて局所の間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell, MSC)の解析及、さらに炎症性サイトカイン/ケモカイン、細胞外マトリックス、増殖因子およびエストロゲン, エストロゲンレセプター(ER-α, ER-β)のタンパク発現および遺伝子発現の解析を行ったが、当該研究費が交付される以前に購入した物品を優先的に使用したこと、さらに当初予定より対照群のサンプル数が少なく、必要物品が予定よりも少なくなったため。 手根管症候群患者10名(疾患群)、または手根管症候群の既往がなく手関節外傷などにより外科的手術を必要とする患者10名(対照群)を対象に組織(滑膜下結合組織)採取及び解析、さらに血清ホルモン値解析(外部委託)に対する物品費として使用する。さらに、閉経の影響によりエストロゲン欠乏に対する間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell, MSC)の機能を明らかにする目的で、マウス ovariectomy(OVX)モデルおよびコントロールマウスを用いて実施する局所滑膜におけるMSCの解析に対する物品費としても使用する。
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