研究実績の概要 |
特発性手根管症候群(Carpal Tunnel Syndrome, CTS)は更年期の女性に多く認められ、女性ホルモンと発症の関連性が推測されている.また、CTSの病態として、手根管内で正中神経を取り巻く滑膜下結合組織の線維化が報告され、間葉系組織のKey regulatorである間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell, MSC)との関連性も注目されている。本研究では、滑膜下結合組織からMSCを採取し、エストロゲンの影響についてin vitroで検討した. 女性CTS患者6名から手根管開放術時に滑膜下結合組織を採取した.採取組織はコラゲナーゼ酵素処理後に,β-Estradiol添加有り(E2+)もしくは添加なし(E2-)培地にてプラスチックプレート接着培養を行った.培養細胞は、フローサイトメトリーによる細胞表面抗原分析(CD73, CD105, CD90, CD45, CD34, CD11b)、増殖能、骨・軟骨・脂肪分化能解析を行った。また、Real Time PCRを用いてPro-fibrotic factorのTGFβ、CTGFについて比較検討を行った.MSCの細胞表面抗原と分化能は、E2+とE2-で差はなかった。MSCの増殖能は、E2+でE2-よりも高かった.TGFβのmRNA発現はE2+のMSCにて低下した.CTS患者の線維化した滑膜下結合組織では、間葉系細胞にてPro-fibrotic factor のTGFβの過剰発現が報告されている.本研究で、CTSの滑膜下結合組織由来MSCは、エストロゲンにより増殖能を高め、TGFβの発現を低下させた.エストロゲンはSmad2/3の分解を促進してTGFβシグナル伝達を阻害すると言われる.エストロゲンがCTS患者の滑膜下結合組織由来MSCの機能に影響している可能性が示唆された.
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