Rorファミリー受容体型チロシンキナーゼ (Ror1、Ror2)は、胎生期の大脳皮質神経幹細胞に高発現しており、Wnt5aの受容体として機能することで神経幹細胞の増殖を促進する働きをもつ。一方、成体の脳内では、Ror1とRor2の発現はほとんど認められないが、我々はこれまでに、外傷を受けた大脳皮質において、損傷部の組織中でRor1、Ror2およびWnt5aの発現量が上昇することを見出した。本年度は、Ror受容体の発現について免疫組織染色法を用いた解析を行い、損傷部周辺のアストロサイトにおいて、Ror2の発現量が上昇していることを明らかにした。そこで、このRor2発現誘導の役割を明らかにするために培養アストロサイトを用いて解析を行った。培養アストロサイトでは、Ror2の発現はほとんど認められないが、bFGFで刺激することで、その発現量は次第に上昇する。培養アストロサイトは細胞周期の静止期 (G0期)にあり、すべての細胞が増殖を止めているが、bFGF刺激により、Ror2の発現誘導のタイミングと一致して、増殖を再開する細胞 (G1/S期に移行した細胞)が出現する。siRNA処理によりRor2の発現を抑制したアストロサイトでは、bFGF刺激後に現れるKi67陽性の増殖細胞の割合が減少することから、bFGF刺激によるRor2の発現誘導はアストロサイトが増殖を再開するために必要であることが明らかになった。さらに、アストロサイトにおけるRor2の発現抑制によって、細胞周期進行促進因子であるCyclin D2の発現量が減少し、抑制因子であるp27の発現量が上昇することを見出した。したがって、Ror2はこれらの因子の発現制御を介して細胞周期のG0期からG1/S期への移行を促進することでアストロサイトの増殖を制御することが示唆された。
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