研究課題
がん細胞分化度とその体内時計形成の破綻の関係を明らかにするために、概日リズム形成破綻モデル系として、ドキシサイクリン誘導性Myc過剰発現マウス胚性幹細胞株(ES細胞)を作製し、それらをin vitroで分化させ、体内時計を形成させることにした。そのために、まず、in vitro分化誘導による体内時計形成の方法を確立することにした。その結果、非常に、再現性良く安定して、体内時計の振動を形成させることができることがわかった。次に、Mycの過剰発現をしながら、in vitroで分化誘導をすると、概日リズムの振動が顕著に阻害されるということがわかった。これは、細胞を分化させた後に、Mycの過剰発現を誘導しても、概日リズムの振動は、阻害されなかったことと、大きく異なっていた。また、この時計形成の破綻は、Mycの過剰発現を停止すると、徐々に時計が形成されるということもわかった。Mycの直接的な影響によって、時計形成が阻害されるわけではないことが示唆された。これらの現象を詳細に調べるために、定量PCR法によって、時計遺伝子群の発現量を定量的に解析した結果、発現量に大きな差は観察されなかった。そこで、さらに、時計タンパク質の状態を調べるために、免疫染色とウェスターンブロットを行った。抗体は、時計遺伝子ノックアウトマウスから樹立した線維芽細胞株を用いて、時計タンパク質を特異的に認識することを確認したものを用いた。その結果、時計形成が破綻している細胞では、時計タンパク質が、細胞を分化させる前のES細胞のときの状態と非常に類似していることがわかった。今後、これらの詳細な分子機構を解析していくことを考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
幾つかの異なる細胞で観察された現象が、共通の分子機構によって説明できる可能性が得られ、研究の重要性が増したためである。すなわち、概日リズムの振動が検出できない未分化なES細胞と、概日リズムの破綻しているガン細胞とで、時計タンパク質の状態が類似していることがわかり、これにより、全く異なる細胞においても、概日リズム破綻の分子メカニズムが同じである可能性が示唆されたためである。これは、細胞分化というものを、体内時計を通じて、再定義することにつながるかもしれず、生物学分野に幅広い影響を与えうるものと考えられる。
本研究で構築したモデル細胞を用いて、次世代シークエンサーによる網羅的な遺伝子発現解析を行う。そして、体内時計形成の破綻を生み出すキー分子の同定をすることを目標にする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
Acta Orthop
巻: 13 ページ: 1-5
10.3109/17453674.2015.1029393
Proc Natl Acad Sci USA
巻: 111 ページ: E5039-E5048
10.1073/pnas.1419272111