本研究では糖尿病性血管障害の発生と体内時計の異常との相互関係の解明するために、動物個体で糖尿病発症と血管における時計遺伝子発現、行動パターン異常について検証した。昨年度は、2型糖尿病モデルTSODマウスの糖尿病発症が11週齢であること、さらにTSODマウスは対照マウスと比較して行動パターンに違いがあることを明らかにした。今年度は臓器レベルの時計遺伝子発現および糖尿病マウス血漿の時計遺伝子発現に及ぼす影響解析を行なった。 時計遺伝子は24時間周期で発現変動するため、明期開始時刻をzeitgeber time (ZT) 0とし、ZT2およびZT14の時点における時計遺伝子Per2およびBmal1発現量をreal-time PCRにて解析した。TSNOマウスにおける発現量と比較した結果、TSODマウスの肝臓におけるPer2発現量は増加し、Bmal1発現量は減少傾向であった。一方、大動脈ではPer2およびBmal1ともに減少傾向であり、肝臓と血管では傾向が異なることが明らかとなった。続いて、Per2-SLG(緑色ルシフェラーゼ)およびBmal1-SLR(赤色ルシフェラーゼ)を導入したマウス繊維芽細胞に糖尿病発症前後のTSODマウスの血漿を添加し、時計遺伝子発現に対する影響を解析した。その結果、TSNOマウスの血漿を添加しても、Per2及びBmal1の周期、位相、振幅、減衰率には影響はなく、糖尿病発症前の5週齢TSODマウス血漿でも同様の結果となった。しかし、興味深いことに、糖尿病フェノタイプを呈する11週齢TSODマウス血漿では、周期及び位相は変化しないものの、Per2の振幅低下、Bmal1の減衰促進が観察され、糖尿病マウスの血中成分が時計遺伝子発現を低下させることが示された。以上の結果、糖尿病モデルマウスの血管における時計遺伝子発現は低下し、糖尿病発症に関わる血中成分がその原因である可能性が示唆された。
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