研究課題
前年度は右心肥大から右心不全への過渡期における冠血管分布と内皮機能の変化を明らかにすることを目的として実験をおこなった.目的達成のために,実験には右心不全モデルとしてモノクロタリン肺高血圧ラット(MCT)および慢性低酸素負荷(10%O2,3 week,CH)を施したラットを用い,正常ラット(Cont)との比較を,SPring-8での放射光によるin vivo血管造影試験によりおこなった.初めに,X線による小動物の右冠動脈血管造影法の確立を目指した.ラットを仰臥位でアクリル板に固定し,X線がアクリル板に対して垂直にあたるように固定して動脈内に造影剤を流してストロボ撮影したところ,右冠動脈を観察することが可能であることが確認できた.次に,薬剤投与による血管機能評価を血管内皮機能と血管平滑筋機能について検討したところ,MCT群では,血管内皮機能が低下している可能性が示唆されたが,CH群では血管内皮機能が亢進している可能性が示唆された.また,L-NAMEとmeclofenamateによるNOSおよびCOX阻害下では,Cont群とMCT群では局所的な血管攣縮が観測されたが,CH群では観察されなかった.以上のことから,CH群では血管機能が亢進し,MCT群では右心肥大はCH群と同程度であるにもかかわらず血管機能が低下している可能性がみとめられた.現在は,様々な右心室肥大モデルにおける右冠動脈血管機能の変遷動態を検討するために,慢性低酸素負荷ラット,Sugen Hypoxiaラット,MCTラットを用いて,薬剤や低酸素負荷期間の違いによる血管機能への影響について検討をおこなっている(SPring-8, 研究課題2014B1801,2015A1868).
2: おおむね順調に進展している
前年度において,SPring-8での実験課題が採択され,ラットを用いた血管造影による右冠動脈機能評価法の構築に成功した.本年度も引き続き採択されたため,右冠動脈機能変化のin vivo評価についての課題が完遂できると考えている.これらの研究成果は当初の研究目的をおおむね満たしており,今後はこれらの成果をまとめて、学術誌での発表を目指す.また,右心機能の経時的変化の計測については,前年度に購入した超音波血流プローブの留置による肺動脈血流測定の手技が確立できたので,この技術とテレメトリーによる右心室圧測定を組み合わせることにより,低酸素下における右心室内圧変化および右心機能変化を同時測定する予定である.したがって,研究計画については課題の一部が申請書とは前後したものの,順調に進んでいる.
初めに,SPring-8においてラットを用いた右冠動脈機能変化のin vivo評価を5月から6月にかけておこない,結果をまとめる.その後,右心室および肺機能のin vivo多角的評価についてテレメトリー法および呼吸代謝測定による慢性計測についての実験を中心におこなう.当初はマウスでの実験を予定していたが,手技の獲得が困難であり,安定した結果も得られなかったため,実験対象をラットに変更し,右心肥大モデルとして慢性低酸素負荷,間歇的低酸素負荷,モノクロタリン肺高血圧および血管内皮細胞増殖因子阻害剤(Sugen)と低酸素負荷を用いた右心肥大モデル(Abeモデル)において右心室および肺機能のin vivo多角的評価をおこない,モデル間での比較・検討をおこなう.
前年度はSPring-8の課題が採択され,in vivo X線微小血管造影実験を前倒しでおこなうことが出来たため,テレメトリーを用いた実験が本年度にずれ込んだ.したがって,テレメトリーの再生費用などの高額な消耗費が計上されなかった.
本年度は,ラットに血圧測定用の送信機を埋め込み,肺動脈に血流プローブを留置することによる慢性実験をおこなう予定である.前年度からの繰越分については,その際に用いるテレメトリー装置の電池再生費用等に使用する予定である.また他の費用については計画書に記載した内容で使用する予定である.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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