研究課題/領域番号 |
25860190
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
中野 大介 香川大学, 医学部, 助教 (30524178)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 急性腎障害 / p21 / プレコンディショニング / 再生 |
研究概要 |
平成25年度は申請した仮説に基づき、①核内における細胞周期調節因子としての作用とは独立して、細胞保護性タンパク質と相互作用をすることにより、抗急性腎障害作用を呈しているか、②急性腎障害に対して、生存細胞の細胞周期を一時的に停止させ、その障害を回復させることにより、死細胞数を最小限に抑制するか、の2点について検討した。①において、予備検討結果から候補となっていたNrf2は、p21による抗急性腎障害効果に必須の因子ではないことが示された。また他の候補因子であったHIF-1、autophagyおよびミトコンドリア活性に関しても、明確な関与を示すデータは得られなかった。一方で、仮説②に記した、細胞周期の一時的な停止作用については、その関与を示す強力な証拠が得られた。すなわち、p21はプレコンディショニングなどの処置に伴い、一過性に速やかに誘導される。これにより、腎近位尿細管が一時的なG1期における細胞周期停止状態になる。これによりDNA修復機構が活性化され、続く急性腎障害に対して、保護的に働いていることが示された。 また、p21シグナル活性化近位尿細管細胞のfate-tracing法に関しては、Confettiマウスの近位尿細管におけるLoxP配列切断を目的として、gamma glutamyl transferase-CreマウスあるいはPhosphoenolpyruvate carboxykinase-Creマウスの2種類とそれぞれ交配を行った。しかし、これらの近位尿細管特異的Confettiマウスは1ネフロン中の尿細管細胞群が単一の蛍光色で占められていた。これは尿細管発生・発達が1つの尿細管芽細胞を起源としていることを示唆しており、目的とするfate-tracingへの使用は不可能であった。目的の達成には、inducible Creマウスを用いる必要があり、昨年度中の検討は困難であり、(当初計画通り)本年度への持ち越し事項となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
既に、平成25年度実験計画に記したものは検討済である。残念ながら仮説としたp21と細胞保護タンパク相互作用に関しては、現象としてはランダムに生じており、強力な相互作用は細胞保護現象としてのautophagy誘導に必須ではないことが示された。しかしながら、平成26年度における実験計画であった、仮説②「p21は細胞周期を(永久停止でなく)一時停止させることにより、尿細管回復に寄与している」が真であることが25年度内に証明でき、国際腎臓学会の刊行するKidney Internationalへの掲載を得るに至った。Kidney Internationalは腎臓学のトップジャーナルの1つであり、科学への貢献度は大きい。また、本研究結果は、第56回日本腎臓学会学術集会、第23回日本循環薬理学会、High Blood Pressure Research Conference 2013などでの発表を通しての情報発信も行われた。また、本研究結果を受けて、更なる発展を望むための研究者交流、共同研究の打診もなされており、影響は大きかったと考えている。これはひとえに本研究により「強力な腎保護効果を示すp21の保護メカニズム」の一部が明確になったことによるものであると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
今回、腎プレコンディショニングによりp21が即座に誘導されることが証明された。この誘導・活性化は3日以内に正常化するため、効果の長期的な残存による患者の不利益(細胞周期の恒久的な停止=細胞老化)を回避しやすいと考えられる。今後は、この治療(予防)法がどのようなケースで効果的かを検討する。まず26年度の計画にも記してあった、すでに健常動物と比べて腎p21発現が亢進しているケースにおいてもプレコンディショニングによるp21一過性誘導が有効であるかを検討する。これは急性腎障害発症患者の疾病背景を鑑みるに、避けては取れない検証事項である。既報の背景から推察するに、既にp21から細胞老化へのシグナル経路が活性化されていると考えられる慢性疾患では、プレコンディショニングのようなp21を誘導する刺激は病態を増悪させると考えられる。その場合、そのような背景疾患を持っている患者に対しても有効な手段を打つ必要が生まれる。p21が一過性細胞周期停止を誘導し細胞保護に働く下流メカニズムは未だ不明である。このメカニズムが明らかになれば、細胞老化を回避しつつ、急性腎障害耐性を誘導できる可能性がある。また同時にp21シグナルを一過性細胞周期停止から細胞老化に変更するトリガーも重要な創薬ターゲットとなりうる。
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