研究課題/領域番号 |
25860191
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
松本 みさき 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80533926)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スーパーオキシド / 活性酸素種 / 抗体 / 大腸 |
研究概要 |
スーパーオキシド産生酵素NADPH oxidaseは、タンパク質や脂質の酸化的修飾によって細胞機能に影響を与える酵素複合体である。NADPH oxidaseの触媒サブユニットであるNOXは膜タンパク質であり、このうちNOX1は正常大腸組織に高発現する。しかしながら、特異的抗体の開発が遅れていることからNOX1の大腸における局在は明らかでない。本研究ではまず、NOX1の組織学的局在および細胞内局在を詳細に明らかにする目的で、抗NOX1モノクローナル抗体の開発に取り組んだ。マウスNOX1の細胞外ドメインに相当するポリペプチドを抗原とし、ラットに免疫後、得られた脾臓細胞からハイブリドーマを作製した。複数のハイブリドーマクローンについて、NOX1遺伝子欠損マウスを陰性対照としたスクリーニングを行い、9つの陽性クローンを同定した。開発した抗体は感度および特異性に優れており、ウェスタンブロット法によって大腸組織のみならず、よりNOX1発現の低い小腸、脾臓、肺組織の膜画分から初めてNOX1を検出できた。本モノクローナル抗体を用いた免疫染色によって、大腸陰窩アピカル膜 (内腔側膜) 上におけるNOX1局在を認めた。ごく最近、デキストラン硫酸ナトリウム摂水による大腸炎モデルにおけるNOX1の大腸粘膜修復促進作用が報告されたが、NOX1を発現する細胞については現在までに特定されていない。今後、本モノクローナル抗体を用いて、細胞増殖マーカーおよび胚細胞マーカーとの共染色を行い、NOX1発現細胞の同定を行う必要がある。これによって、NOX1による大腸粘膜修復作用のメカニズムについて詳細に解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定した抗NOX1モノクローナル抗体の開発は順調に進んでいる。開発中の抗体は、既存の抗NOX1ポリクローナル抗体の感度および特異性を上回るものであり、これまで不可能であった小腸、脾臓、肺組織からNOX1を検出できたことは重要な成果である。本モノクローナル抗体を用いた免疫電顕による細胞内局在についても検討する予定であり、これまで特異的抗体の開発が遅れていることから不明であったNOX1局在について詳細な手掛かりが得られると期待される。 一方、本研究の課題とした大腸粘膜修復作用に対するNOX1の機能的な解析については、昨年に海外研究グループより、大腸特異的NOX1遺伝子欠損マウスを用いて、デキストラン硫酸ナトリウム摂水による大腸炎モデルにおけるNOX1の大腸粘膜修復促進作用が報告された (J Clin Invest. 123(1):443-54, 2013)。本論文では、NOX1が大腸上皮細胞の細胞移動を促進することによって修復を促進することを証明している。一方で、胚細胞におけるムチンの遊離にNADPH oxidase由来の活性酸素種が重要であるとの知見も報告された (EMBO J. 32(24):3130-44, 2013)。しかしながら両論文において、組織内におけるNOX1発現細胞の特定はなされていない。正常大腸におけるNOX1発現細胞の特性を明らかにし、NOX1による大腸粘膜修復作用のメカニズムについて詳細に解析していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に関連する先行研究成果を受けて、重複する研究計画を変更し、以下のように研究を実施する。 1. 1年目に得られた抗NOX1モノクローナル抗体を用いて、大腸におけるNOX1発現細胞を同定する。上皮細胞マーカー、杯細胞マーカー、細胞増殖マーカーを用いて共染色し、NOX1発現細胞の性質を明らかにする。さらに、免疫電顕に取り組み、未だ未解明であるNOX1の細胞内局在を詳細に明らかにする。 2. 大腸粘膜の保護分子であるムチン遊離について、NADPH oxidaseの関与が先行研究により報告されているが、NOX1遺伝子欠損マウスを用いた機能的解析は行われていない。マウス腸管ex vivo灌流系を用いて、野生型およびNOX1遺伝子欠損マウスの灌流液中ムコ多糖分泌を定量し、比較解析する。 3. 2.についてNOX1欠損の影響が認められた場合、膜を介した溶液の電位差を測定し (短絡電流法)、ムチンの遊離に重要となる電解質輸送を評価する。各種チャネルやトランスポーターに対する阻害剤を用いることでNOX1が関わる電解質輸送を明らかにする。
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