研究課題/領域番号 |
25860203
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 美紀 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00455784)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ヘム / マクロファージ / 転写因子 |
研究概要 |
本研究は、生体に必須なヘムが転写抑制因子Bach2を標的とするシグナル分子として作用し、自然免疫応答を制御する機構を解明することを目指す。Bach2は形質細胞分化を抑制し、クラススイッチ組換えに必須な因子である。申請者は、ヘムがBach2と直接結合し、不活性化することで、形質細胞への分化を促進し、液性免疫を制御する役割を示してきた。本研究では、この「ヘムによる免疫応答制御」の概念を自然免疫系に展開し、ヘム異化と鉄の再利用でも重要なマクロファージ細胞において、ヘムがBach2のリガンドとして自然免疫応答を調節することを明らかにする。 マクロファージは獲得免疫と自然免疫の相互調節に関わるとともに、ヘム・鉄の代謝恒常性維持も担う。しかし、マクロファージにおけるこれら機能が、共役的に調節される可能性はほとんど注目されていない。本研究の特色は、研究対象であるBach2が、ヘム輸送、分解および分解産物の処理といった一連の過程を統合的に制御し、さらに自然免疫と獲得免疫を制御するという、代謝と免疫の新しい連携システムを解明できる可能性をという点にある。加えて、申請者の所属研究室では、ヘム分解酵素HO-1遺伝子を直接標的遺伝子とする転写因子が、Bach2およびファミリー因子Bach1であることを示してきた。従って、本研究によってヘムと自然免疫との関係が明らかになれば、免疫の理解・制御に新たな視点が加わるだけではなく、ヘムに対する理解の地平も従来の「酸素輸送・エネルギー生産への関与」という解釈から、「疾病に関わる免疫応答の制御」まで大きく広がる可能性がある。所属研究室では、Bach2 KOマウスの詳細な解析から、Bach2 KOマウス脾臓においてヘムの代謝産物である鉄の沈着が乏しいことを見いだされている。25年度は、マクロファージにおけるBach2とヘム輸送・代謝および鉄代謝関連遺伝子の関係を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Bach2ノックアウトマウスのB細胞を用いたDNAマイクロアレイ解析から、ヘムトランスポーターHRG1の遺伝子発現が上昇していた。HRG1は、細胞内のヘム輸送に必須な因子である。更に、HRG1遺伝子のイントロン領域には、Bach因子の特異的なMARE配列が存在した。そこで、B細胞を用いたレポーターアッセイおよび、ゲルシフトアッセイ実験を行い、Bach2がHRG1遺伝子の発現を直接制御できることが明らかとなった。 また、Bach2ノックアウトマウスの肺胞マクロファージでHRG1のmRNA発現が上昇していた。 マクロファージにおいて、Bach因子が、ヘム・鉄代謝の遺伝子発現制御に関与すること示すために、GM-CSF存在化で培養した野生型およびBach因子ノックアウトマウス由来の骨髄由来マクロファージを用いて、定量PCRを行った。その結果、野生型と比較してBach1ノックアウトマウス由来マクロファージに於いて、ヘムオキシゲナーゼ、フェリチン、ヘムトランスポーターといったヘム・鉄代謝の遺伝子の発現が上昇していた。一方で、Bach2ノックアウトマウス由来マクロファージでは、野生型と比較して、これらの遺伝子の発現に大きな変化は見られなかった。GM-CSF存在化で培養した野生型のマクロファージではBach1と比較してBach2蛋白質の発現量が低いことが観察された。更に、野生型およびBach1ノックアウトマウスに、それぞれ酸化させた赤血球を投与し、骨髄マクロファージのDNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、野生型ではヘム代謝鉄代謝遺伝子の発現が亢進していたが、Bach1ノックアウトマウスでは、ヘム代謝鉄代謝遺伝子の発現に大きな変化は見られなかった。これらの結果から、マクロファージにおいて、Bach1はBach2とは異なり、ヘム代謝鉄代謝遺伝子を抑制し、溶血や赤血球老化、酸化ストレス応答時に恒常性を維持する機能に特化していることが考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに本研究では、ヘム代謝産物である鉄の貯蔵・排出に関わるフェリチンおよびフェロポーチンがBach因子の直接標的遺伝子であること、特に骨髄由来マクロファージにおいて、Bach1がヘム代謝鉄代謝遺伝子を抑制し、恒常性を維持する機能に特化している可能性を示してきた。 一方、Bach2 ノックアウトマウスでは、マクロファージの細胞分化がM2系に偏向していることが明らかとなっている。また、Bach2 KOマウスの詳細な解析から、Bach2 KOマウス脾臓および骨髄組織においてヘムの代謝産物である鉄の沈着が乏しいことを見いだしているが、その原因については明らかではない。これは全身性のノックアウトマウスから得られた知見であり、マクロファージの内在性の異常なのか、外因性なのかについても明確ではない。そこで、マクロファージ系列特異的なBac2 KOマウスを作出し、脾臓および骨髄マクロファージの障害が内因性か否かを検証する。具体的には、Bach2ノックアウトマウスの組織で見られる鉄沈着の減少が、マクロファージ自体の問題であるかを示すために移植実験を行う。そして、野生型マウスに野生型の血球を置き換えたコントロールに対し、野生型マウスにBach2ノックアウトマウスの血球を置き換えたマウスでは、骨髄に鉄沈着が減少するか否かを検証する。更にDNAマイクロアレイ解析等を行うことで、最終的に、Bach因子が、ヘム輸送、分解および分解産物の処理といった一連の過程を統合的に制御し、さらに自然免疫と獲得免疫を制御するという、代謝と免疫の新しい連携システムを解明できる可能性を追求していく。
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