PINK1はマイトファジーによる損傷ミトコンドリアの分解を通じて細胞生存に寄与する分子であるが、ストレス環境下でのPINK1の転写制御機構についての詳細が明らかではなかったので、その解析を行った。酸化ストレスなどによってミトコンドリアにストレスが生じる環境で、PINK1の発現は増強された。申請者はPINK1のプロモーター解析を行い、抗酸化制御転写因子NRF2の結合配列がPINK1プロモーター上に存在することを見出した。NRF2の発現レベルを変化させることによってPINK1の転写発現は変動した。またプロモーター上のNRF2結合配列の変異・欠失によってNRF2によるPINK1転写活性は減少した。ミトコンドリアにストレスが生じる環境でNRF2はストレスから細胞を保護する効果を示したが、PINK1の発現抑制によってその効果は減弱した。またミトコンドリア新生に関与するPGC-1αのプロモーター上にもNRF2の結合配列が存在し、ストレス環境下でPGC-1αの発現が亢進した。これらの結果からミトコンドリア恒常性維持機構の1つとして、ストレス環境下でNRF2が活性化し、PINK1、PGC-1αの発現制御を通じて細胞生存に寄与する機構が明らかとなった。 PINK1の結合タンパク質の1つとして見出したSARM1の解析を行い、SARM1がミトコンドリア呼吸に作用し細胞死を誘導する機構を見出した。SARM1の活性化を抑制することによって細胞死を抑制できる可能性があるので、特許出願を行った。今後更にその詳細な分子機構を明らかにしていく予定である。
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