細胞は増殖の過程で細胞表層に様々な環境ストレスを受け、傷つく。傷の周りにアクチンや微小管、Rho型GTPaseなどが集まり、細胞質分裂とよく似た仕組みで速やかに行われる修復を「細胞創傷治癒(Cellular wound-healing)」と呼ぶ。これに欠損があるとデュシェンヌ型筋ジストロフィー症を発症するが、詳細な分子機構は解明されていない。申請者は出芽酵母の強力な遺伝学を背景に、ポストゲノム時代のツールを駆使して細胞創傷治癒に関与する遺伝子の網羅的同定を行った。その結果膜損傷の修復後に細胞膜を構成する脂質が変化することで「細胞膜の老化」が起こり、それが細胞老化を誘導する一因となることを見出した。ヒト正常培養細胞においても細胞膜の傷に起因する細胞膜構成の変化と細胞老化が認められた。これまで細胞老化はテロメア長の短縮、サーチュインの欠損、ミトコンドリアの機能欠損、Torやプロテアソームの欠損などにより誘導されることが報告されているが、細胞膜損傷も細胞老化の一因であることが明らかになった。
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