研究概要 |
膵β細胞の傷害時に発現する増殖因子としてラットで発見されたReg (Regenerating gene) 遺伝子は,ヒトでは5種類 (REG Iα, REG Iβ, REG III, HIP/PAP, REG IV) から成るREG family として存在するが,どのREG遺伝子がヒト膵β細胞の再生増殖に重要かは不明である.本研究の目的は,5つのヒトREG遺伝子の膵β細胞における発現と機能の解明である. 平成25年度では,ヒト膵β細胞の培養細胞1.1B4細胞において,REG Iα 遺伝子が炎症性サイトカインのIL-6と抗炎症ホルモンのグルココルチコイド(デキサメサゾン,Dx)の同時刺激によって転写誘導される機構を解明した.レポーターアッセイとゲルシフトアッセイによりJAK/STAT経路の関与が示唆されたので,クロマチン免疫沈降を行い,IL-6/Dx刺激によって転写因子STAT3のREG Iαプロモーターへの結合が増加することを明らかした. REG Iα遺伝子の転写活性のIL-6/Dxによる増幅率は約10倍であったが,その他の傷害性刺激で同程度まで増幅させるものはなかった.また,REG Iα遺伝子以外のREG family遺伝子は,IL-6/Dxをはじめ,どの刺激によっても顕著に転写誘導されることはなかったので,ヒト膵β細胞の傷害時に発現が増加して再生増殖に働くのは,主にREG Iα遺伝子であると考えられた. REG Iα遺伝子の誘導効率が低いと糖尿病リスクが高まる可能性があるので,IL-6/Dx刺激による誘導に対する一塩基多型(SNPs)の影響を調べた結果,-563G/A,-10T/Cについては,マイナーアレルである -563A, -10Cで転写活性が2割ほど低下すること,-1166G/C, -1087T/C, -537A/Cについてはアレルによる差はないことを見出した.
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