研究課題/領域番号 |
25860220
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
山内 晶世 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (70361110)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 再生増殖因子 / SNP |
研究実績の概要 |
膵β細胞の傷害時に発現する増殖因子としてラットで発見されたReg (Regenerating gene) 遺伝子は,ヒトでは5種類 (REG Iα, REG Iβ, REG III, HIP/PAP, REG IV) 存在する.本研究の目的は,ヒトREG遺伝子の膵β細胞の傷害時における発現とその機構の解明である. ヒト膵β細胞の培養細胞1.1B4細胞において,REG Iα遺伝子は炎症性サイトカインのIL-6と抗炎症ホルモンのグルココルチコイド(デキサメサゾン,Dx)の同時刺激によってJAK/STAT経路を介して転写誘導される.これまで,REG Iαプロモーターの一塩基多型(SNPs)の転写誘導への影響を一過性発現系によるレポーター遺伝子アッセイで検討し,-563G/Aと-10T/Cについて,マイナーアレルの -563A, -10Cで転写活性が2割ほど低下することを見出した.SNPsがクロマチン構造に関わる可能性を考え,ルシフェラーゼ遺伝子を連結したREG Iα遺伝子プロモーターを染色体に組み込んだ1.1B4細胞を分離してIL-6/Dxによる転写誘導を検討した.その結果,メジャーアレル(-563G, -10T)をもつプロモーターを導入した細胞ではIL-6/DxによってREG Iα遺伝子が転写誘導される株とされない株の両方が単離された.一方,-563Aまたは-10Cをもつプロモーターを導入した細胞はどれもIL-6/Dxによる転写誘導が見られず,これらのSNPsが膵β細胞の増殖能の差を生じて糖尿病の発症や病態に関わる可能性が示唆された. また,REG Iβ遺伝子もIL-6/Dxによって,REG Iα遺伝子と同様にJAK/STAT経路を介して転写誘導されることを見出した.したがって,ヒト膵β細胞の傷害時にはREG IαおよびREG Iβ遺伝子が発現し増殖に関わることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
増殖因子遺伝子群REG ファミリーは,ヒトでは5つ (タイプI のREG Iαと REG Iβ,タイプIIIのREG IIIとHIP/PAP, タイプIVのREG IV) 存在するが,膵β細胞の再生・増殖にはどれが重要であるかは不明であった.本研究で,5つのREG ファミリー遺伝子のうち,タイプ IのREG遺伝子が炎症条件下でJAK/STAT経路を介して発現することを明らかにした.発現誘導におけるREG Iα遺伝子プロモーターの一塩基多型(SNPs)の影響を調べた結果,-563G/A,-10T/Cについて,マイナーアレルである -563A, -10Cで転写誘導が抑制されることを見出し,糖尿病の発症や病態にこれらのSNPsが関与する可能性を示した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で,炎症性刺激 (IL-6/Dx)によるREG Iα遺伝子の転写誘導にはクロマチン構造が関与している可能性が示唆された.ヒトの膵β細胞はきわめて遅い速度で増殖するが,膵β細胞特異的なクロマチン構造が細胞増殖を制御している可能性がある.研究代表者はこれまで,膵管癌,唾液腺導管,大腸・胃癌由来の細胞ではREG Iα遺伝子はIL-6単独で転写誘導されることを見出しており,REG Iα遺伝子発現にIL-6に加えてDxが必要であることは膵β細胞特異的な性質である.このことが,膵β細胞の増殖速度が遅いことと関係している可能性がある.今後,ChIP-seq法によってREG Iα遺伝子プロモーターのヒストン修飾を解析し,他の細胞との比較およびIL-6/Dx刺激による変化の有無を解析するなど,エピジェネティクス解析を行う必要がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に炎症性刺激によるREG Iα遺伝子転写誘導機構の解析結果を学会発表する予定であったが,REG Iβ遺伝子もIL-6/Dxによって転写誘導されることを見出したため,転写誘導機構を解析しその成果も合わせてまとめることとした.このため計画を変更し,REG Iβ遺伝子の転写誘導機構の解析を行うこととしため,予算の未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
REG Iβ遺伝子の転写誘導機構の解析結果を整理し,これまでのREG Iα遺伝子転写誘導に関する成果と合わせて,国内学会および国際学会で発表する予定であり,未使用額はその経費に充てる.
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