研究課題
若手研究(B)
平成25年度の研究実施内容として、特定の遺伝子導入によるマウス多能性幹細胞から卵子/卵胞への直接誘導について検証を試みた。具体的には、未分化細胞レポーターとしてOct4-GFP、生殖細胞レポーターとしてVasa-RFPを有するトランスジェニックマウスiPS細胞を用い、細胞運命を直接左右することが推測される転写因子の強制発現を行った。「卵胞形成誘導因子」の候補遺伝子として、まずはノックアウトマウスなどの解析によって卵子発生・卵胞形成に重要であることが判明している転写因子に焦点をあて、Nobox、Figla、Lhx8、Sohlh1、Sohlh2、Ybx2、Foxo3、Seboxの8遺伝子を候補の第一プールとして選択した。各遺伝子についてORFのクローニングを行い、恒常発現プラスミドベクターおよび恒常発現/薬剤誘導性PiggyBACベクターの3種類の発現ベクターの作成し、上記iPS細胞に様々な組み合わせでエレクトロポレーションを行った。各組み合わせにつき最大24クローンの遺伝子導入iPS細胞株を選択してVasa-RFPの発現を観察したところ、NoboxとFiglaの2遺伝子を導入したiPS細胞において、未分化培養条件(フィーダー細胞上でLIF添加培養)でVasa-RFP陽性細胞が出現することが観察された。Vasa-RFP陽性細胞の大部分はOct4-GFPと共陽性であったが、Oct4-GFP陰性/Vasa-RFP陽性の細胞も一部で観察された。これらのiPS細胞における導入遺伝子の発現を解析したところ、8株中5株でNoboxとFiglaの強制発現が確認されたのに対し、残り3株ではNoboxのみが強制発現されていた。しかし、Vasa-RFP陽性細胞の出現は全ての細胞株において観察されたことから、Vasa-RFP陽性細胞の誘導にはNobox単独の強制発現で必要十分であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究を開始するにあたり、他の研究グループによる先行研究や申請者自身による最近の実験データ(Nitta & Imamura et al., 2013、および簡易発現スクリーニング)に基づいて、8種類の転写因子を「卵胞形成誘導因子」の第一候補として選別した。研究の早い段階でこれら8遺伝子のORFのクローニングと3種類の発現ベクターの作成を進めることができたため、当初の予定を前倒しする形でES/iPS細胞への遺伝子導入実験と機能的スクリーニングに着手することができた。結果として、当初計画していた卵子形成過程における分子動態解析は後回しにすることとなったが、本研究にて主眼を置いているのはあくまで遺伝子導入実験による卵子/卵胞の直接誘導であり、分子動態解析はその候補因子を探り出すための準備段階という位置付けであったため、研究全体の進行状況としてはむしろ順調に進展していると考えられる。一方、遺伝子発現プロファイルに基づく「卵胞形成誘導因子」の発現スクリーニングについて、将来の展開を見据えた新たなアプローチとして、コンピュータ解析による遺伝子発現制御ネットワークの特定とその中心的転写因子(コア因子)の特定を試みた。その予備実験として、現・九州大学の林克彦博士らが開発した「マウスES/iPS細胞から機能的な始原生殖細胞を分化誘導する培養系(PGCLC法)」を利用し、PCRアレイによる遺伝子発現動態のモニタリングとコンピュータ解析による遺伝子発現制御ネットワーク解析を行った(システム・バイオロジー研究機構との共同研究)。これにより、ES細胞から始原生殖細胞への分化に伴う遺伝子発現制御ネットワークの変遷とコア転写因子を絞り込むアプローチについて実際に検証することができ、将来的な「卵胞形成誘導因子」のin silicoスクリーニングのシミュレーションとなった。
平成25年度の研究結果を踏まえ、今年度はVasa-RFP陽性細胞の誘導効果が見られた転写因子に着目し、それらを強制発現したiPS細胞の詳細な特性解析を実施する。まずは遺伝子導入による生殖細胞誘導効果を定量的に把握するために、未分化培養条件におけるOct4-GFP陽性細胞とVasa-RFP陽性細胞の割合を測定する。これと同時に、Vasa-RFP陽性細胞の誘導効率と導入遺伝子の発現量との相関についても計測を行う。一方、遺伝子導入による生殖細胞系譜へのコミットメントの状態について解析するために、未分化培養条件における各種生殖細胞マーカー遺伝子(始原生殖細胞マーカー、卵子マーカー、減数分裂マーカー)の発現解析を行うほか、分化誘導条件(胚様体形成培養、フィーダー細胞/LIF非存在下の接着培養)で培養した場合のVasa-RFP陽性細胞の挙動および遺伝子発現について解析を行う。生殖細胞マーカー遺伝子の発現が強く認められるiPS細胞に対しては、網羅的な遺伝子発現解析と遺伝子発現制御ネットワーク解析を実施するともに、クロマチン免疫沈降法による導入遺伝子の標的ゲノム領域の解明も試みる。一方、卵子誘導効率のさらなる向上と卵子「成熟」過程への移行を実現するために、第一候補として検証した8種類の転写因子以外の新たな遺伝子(第二候補)についても機能的スクリーニングを実施する。また、遺伝子導入したiPS細胞の卵胞成熟培養条件での培養実験についても検証を行う。iPS細胞において高い分化誘導効率を示す転写因子セットに関しては、Oct4-GFP/Vasa-RFPレポーター遺伝子を有する線維芽細胞への遺伝子導入を行い、卵子へのダイレクトリプログラミングの可否について検証を行う。
当該科研費の申請は慶應義塾大学医学部にて行ったが、平成25年度の下半期の時点で平成26年度には京都大学霊長類研究所に籍を移すことが決まっており、新しい研究室のセットアップ費用が必要になることが見込まれた。そこで、平成25年度分の科研費の一部を繰り越し、翌年度のセットアップのための費用に充てることとした。現在、籍を置いている京都大学霊長類研究所では、これまでに細胞培養を主体とする研究が行われてこなかったため、本研究課題のような幹細胞研究を遂行するためのプラットフォームが十分に整備されていない。そこで、分子生物学実験および細胞生物学実験の実施に必要な機器・備品類を購入する予定である。
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