研究実績の概要 |
これまでに我々は消化器がん細胞株(SW480, HCT116, PANC-1)を用いた解析によって, がん細胞代謝の特徴とされる酸素供給量に非依存的な乳酸産生(Warburg効果)がGSK3βを阻害することによって抑制され, ミトコンドリア内での代謝産物量(アセチル-CoA, クエン酸, フマル酸, マレイン酸)が増加することを見出した. 本年度はマウスのゼノグラフトモデルを作成し, in vivoでの代謝産物に対するGSK3β阻害の影響について解析した. 大腸がん由来細胞株(SW480, HCT116)を移植したマウスではGSK3β阻害剤非投与群と比較して, 投与した群では腫瘍内での各種代謝産物量が変化することを見出した. 培養細胞株を用いたin vitroでの解析と一致して, 腫瘍部のがん細胞ではGSK3βを阻害してもピルビン酸には影響をせず, ピルビン酸を原料とする乳酸が減少する一方で, アセチル-CoAが増加することを確認した. また, 同一個体の肝臓ではGSK3βを阻害してもピルビン酸, 乳酸, アセチル-CoAといった代謝産物の量的変化は認められなかった. さらに, 初年度から引き続き作成していたPDH-E1αに対するリン酸化ペプチド特異抗体が完成したため, 各種消化器がん細胞株を用いてウエスタンブロット法により検証し, GSK3βによるPDH-E1αのリン酸化部位を特定した. これらの結果より, ピルビン酸からアセチル-CoAを合成するピルビン酸脱水素酵素(PDH)の機能をGSK3βがリン酸化によって制御することでがん細胞に特徴的なWarburg効果を惹起していると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析結果から, GSK3βががん細胞エネルギー代謝特性の中心的な役割を担っていると考えられているピルビン酸脱水素酵素(PDH)と相互作用することでがん細胞の代謝を制御していることが示唆された. また, 活性型のGSK3βはミトコンドリアにも局在することが知られているため, 次年度はPDHとGSK3βの相互作用によるミトコンドリア機能への影響についても解析を進める.
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