研究実績の概要 |
これまで本研究において大腸がん細胞(SW480, HCT116)で高発現・高活性化されたGSK3βを阻害すると酸素多寡非依存的な解糖(Warburg効果)が抑制され, アセチル-CoA, クエン酸, フマル酸をはじめとしたクエン酸回路での代謝産物量が非がん細胞(HEK293)に近いレベルにまで回復することを見出した. そして, こうした作用が生じるのはピルビン酸からアセチル-CoAを合成するピルビン酸脱水素酵素(PDH)ががん細胞ではGSK3βによって制御されているためであると考えられた. 本年度は大腸がん細胞でのGSK3βによる代謝調節とミトコンドリア機能との関係を詳細に解析した. まず, 酸素消費速度を指標として酸化加的リン酸化におけるエネルギー産生効率を計測したところ, 大腸がん細胞でGSK3βを阻害すると非がん細胞と比較して酸素消費が大きく増加することがわかった. このことから, GSK3βはミトコンドリアでの酸化的リン酸化反応を抑制することでがん細胞特有のWarburg効果を誘導していると考えられた. また, 大腸がん細胞におけるミトコンドリア分画ではGSK3β阻害によって過酸化水素が増加しており, シトクロムcの放出といったアポトーシス誘導の状態が観察された. GSK3βは細胞質の他に核やミトコンドリアにも局在しており, その活性に応じて細胞内局在が異なっている. GSK3βの局在を解析したところ, ミトコンドリアに局在するGSK3βは活性型として多く存在していることが判明した. こうした結果から, 高発現・高活性化されたGSK3βはミトコンドリア内でPDHをリン酸化することによって, 解糖系とミトコンドリアでの酸化的リン酸化の均衡を調節し, がん細胞の生存に有利なエネルギー代謝を付与していると考えられた.
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